僕、星野紫苑は瀬名泉を愛していた。
瀬名「ごめ、紫苑……おれっ」
いつもムスーっとした顔を歪ませ、泉は僕に謝った。
気高く、プライドが高い彼が綺麗な水色の瞳を濡らして謝るのには訳があった。
モデル時代の後輩であり、クラスメイトであり、恋人である関係の僕たち。
男同士であるけれど、どんな綺麗な女の人をみても興味が持てないのは、目の前にいるどんな女の人よりも綺麗な彼のせいだと思った。
誰よりも大切で、誰よりも愛している。
両親に捨てられ、お金の必要さ故に汚いことをしてきた僕だ。
もうそのツケが回ってきたのだろうか。
どんな理由であっても、汚れた人間は綺麗な人間を愛してはいけないと思った。
ポロポロと大きな瞳から涙をすくいとり、僕は震える声を必死に隠しながら口を開いた。
『いいんだよ、泉。』
その言葉に瞳が溢れそうなほど目を開いた。
僕は必死に笑顔を作りながら、
『僕のことは気にしないでね。
泉のことだから、気にして泣いちゃうでしょ?
僕のことは忘れて、幸せになって。』
遠くで泉を呼ぶ声がする。
行きたそうに、でも行ってはいけないかもと迷う泉の背を押した。
『ほら、呼んでるよ。行かなきゃ。』
じゃあと離れていく愛しい背中を目に焼き付け、自分がこれからすることを考えた。
鳴上「紫苑ちゃん、」
物陰から俺たちを見守っていたらしい嵐が心配した顔で来た。
そんな顔をさせたいわけじゃない。みんなには笑っていてほしい。
ずっと願って来たのに、僕はそれすらできないのかな。
鳴上「いいの?
紫苑ちゃんここからいなくなるつもりでしょ?」
その問いに、ごまかすように僕は笑った。
嵐には世話になりっぱなしだ。
僕たちのことを優しく見守っていてくれた。
転校生がきて、学院の絶対王政が崩れ、みんながいい意味で変わった。
転校生がきて、僕は自分の役割を失い、みんなに忘れられて行った。
泉は男の僕より、女の転校生の方がよかったのだ。
誰でもそうだと思う。
僕には柔らかそうな身体も、ふんわりと香る甘い香りもしない。
仕方がいないと一言で片付けてしまうほど、僕の泉への気持ちは弱くはないが、泉が僕より転校生を選んだことは、もう仕方がないで済ませてしまいたいほど、もうこれ以上考えたくはなかった。
いつもツンツンとしている彼は、とても心の優しい子だ。
冷たいことを言うけれど、それは相手のことを思ってのことだって知ってる。
優しいから、元の恋人だった僕のことを気にしてしまう。
彼の悲しんでる顔はみたくない。
彼には笑っていてほしい。
彼には幸せになってほしい。
僕にはできなくて、転校生ならできる。
なら、僕はここからいなくならなければ、、、
『嵐は、僕のこと忘れないでね。』
君の
『僕、遠くに行こうと思う。』
君たちの
『もう会えないけど、』
『君たちの幸せをずっと願っているよ』
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