はじまりの予感 5

結論から言うと、カイトとのセックスは人生を変えるほど素晴らしいものだった。
初めて演技なしに何度もイッたし、空イキや連続オーガズムといった度を越した快感も知ってしまった。

子供の頃から虐待を受けて来たが、それらの全ては俺を痛み付けて自分が気持ち良くなるためのものだった。
痛みに気を失ったことは何度もあったが、過ぎる快感で失神したのは初めてのことだ。

「…潮、吹いちゃった」
「そうだな」
「男でも普通に潮吹き出来るんだ」
「まあな」

ということは、カイトは何人もを相手に潮を吹かせたことがあるのだろう。

「…ねえ、カイト」
「ん?」
「あんた、何者?」

野性の勘とも言える触手が動いた。
俺はまだ子供だけど、カイトが普通の客と違うのはよくわかる。
俺の問い掛けをはぐらかすように笑い、カイトは煙草に火を着ける。

「じゃあ質問を変えるよ。あんた、何してる人?」

本来は客のプライベートに立ち入ることはマナー違反だ。
だけど聞かずにはいられなかった。

「…名刺?」

返事の代わりに差し出されたそれを受け取ってみると、英語ばかりでよくわからない。

「エデン?」

小学校さえまともに通っていない俺は英語が苦手だ。
なんとかローマ字読みで店名であろうそれを読み上げると、カイトは何故だか嬉しそうに笑った。

「えーと、エデン、ナンバー1ホスト…魁斗?」

漢字も簡単なものしか読めないけど、恐らくは名前欄に書いてあるこれでカイトと読むんだろう。
カイトってこんな難しい漢字なのか。

「それは源氏名な」
「源氏名…」
「本名も同じカイトだけど、カイの漢字は海と書くんだよ」
「…海斗?」
「そ」

海斗がホストクラブのナンバーワンホストだと言うことはわかったが、なんだか上手くごまかされたような気がする。
俺が知りたいのは海斗の職業じゃなくて、言ってみれば海斗の正体だ。

「大和」

その時、不意に本当の名前で呼ばれて小さく肩が跳ねた。

「え、あ?なんで俺の名前…」

俺を雇ってくれているオーナーにさえ本名を隠していて、今の俺は麻人で通っているのに。

「安心しろ。お前を元の環境に戻すつもりはない」

この男、海斗はどこまで知っているんだろう。

「なあ、大和。俺んとこ来ないか?」

すると突然そう言われて、俺は思わず息を詰めた。


Bkm
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