カミングアウトは突然に 10

他にも、

「岩佐君って受けなの?」
「え、それは…」
「タチって感じじゃないけど」
「ま、まあそうですね」
「じゃあ、かまを掘ってみたい?」
「そ、そっちは結構ですっ」
「やっぱ受けなんだ?」
「た、多分…」

そんなちょっと突っ込んだ話も追い追いとすることにして、僕は店を出たのだった。


「ただいまー」

徒歩で三分の道のりは、寒さを感じる暇さえなかった。
寄り道しなかったからか、きっちり三分で家に着く。

「おかえり。どうだった?」

玄関に入ると、パタパタとスリッパの音を立てながら母さんが心配顔で聞いてきた。

「採用だって。明日から早速バイトなんだ」
「まあ、明日から?おめでとう!よかったわねえ。あ、ねえ、お昼のお弁当はいる?」
「近いからお昼は食べに帰って来てもいい?」
「勿論よ。何時頃になるかメールしてね」
「うん。わかった」

玄関先でそんな話を交わして、僕は二階の自分の部屋に戻った。



「はあ……」

さっきまでの出来事が、まるで夢の中の出来事だったような気がする。

「…もっと話していたかったな」

もしかしたら本当に夢だったのかも知れない。
そう思って頬を抓ってみたら、普通に痛くてホッとする。
お兄ちゃんから貰ったDVDを手に取って、やっぱりすごく似ているなあと感嘆の溜息を一つ。
なんとなくスマホを覗いたら、液晶画面に『16:00』と表示されていた。

面接時間は午後3時からだったから、いつの間にか3時間も経過していた事実に驚いてしまう。

まさかお兄さん…もとい。
店長がそうだとは思ってもみなかったけど、初めてリアルで男性同性愛者に出会った。
店長はこの世界のことをもっと教えてあげると約束してくれて、僕はアルバイトに行くのが楽しみになった。

どうやらこれから働かせて貰うお店もゲイ物が豊富らしくて、そう思うとますます楽しみになってしまった。
スタッフの人も大半がゲイの人みたいだし、もしかしたら恋に発展するような出会いもあるかも知れない。

そう思ったその時、何故だか店長の顔が浮かんだ。
僕と同じアルバイトスタッフの筧さんもかっこよかったけど、やっぱり店長が一番なんだよね。

『知春ー、ご飯よー』
「あ、はーい」

手にしたDVDをベッド脇に置く。
主人公の高校生役の受け男優さんは翼君。
ドSの先生役のタチ男優さんの名前もクレジットしてあることに、この時の僕はまだ気付いていなかった。


Bkm
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