カミングアウトは突然に 8

ここに来たのはいつぶりだろう。
受験もあったから、最近はネットにアップされている動画で試聴するだけだったのでとても久しぶりな気がする。
かじかんだ手に息を吹き掛け、入店する前に店の前で一度、深呼吸。

「よしっ」

いつものように気合いを入れて、僕は店に足を運んだ。

この店は家から徒歩で3分ほどの距離にあり、コンビニ経由を換算しても我が家から10分と掛からない距離にある。
合格した大学に近い場所でバイト先を探す手もあったけど、自宅から大学に通うつもりの僕は、迷わず自身が常連でもあるこの店を選んだ。

それほど頻繁じゃないけど定期的に利用しているし、店員さんも顔見知りになっているから働きやすい気がする。
ただ、あの店の系列店だってことだけが少し気になったけど、慣れた店の方が仕事がやりやすいだろうし。

いつもの入口から入って行っていいのか少しだけ迷ったけど、

「いらっしゃいませー」

まだ働くかどうか決まってないのに裏口から入るのは不躾な気がして、結局は表口から店に入った。

「あのっ」
「はい?」
「アルバイトの件でお邪魔した岩佐と申しますが、店長さんいらっしゃいますか?」
「ああ、君が」

いつも接客して貰ってる人に声を掛けたら、

「ちょっと待っててね」

そう言って、彼はバックヤードに消えて行った。


実は今の店員さん、かなり好みだったりするんだよね。
平日の昼間も入ってるからアルバイト店員じゃなくて正式な店員さんかも知れないけど、年齢的にはまだ二十歳前後ってところかな。

他の店員さんも優しそうな男の人ばかりで、ここで働けたら楽しいと思うんだけど。
実は、高校と同じ邪な気持ちでバイト先を選んだ僕は、そわそわしながら彼が戻って来るのを待った。


「わ。これ、もうDVDビデオが出てたんだ」

待ってる間、手持ち無沙汰に店内を回ってみたら数ヶ月前に観た映画が新作として棚に並んでいた。
受験が終わってすぐだから、観に行ったのは11月だったかな?
受験前に定期的に息抜きもしてたから、もっと前かも知れない。

「お待たせ。また会ったね」
「―――!」

その時、背後からある意味、聞き覚えてしまった声が聞こえて、思わずそのまま固まってしまった。


Bkm
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