ゲイビ上等! 2

「……なっ!」
「凌先輩、龍牙!」

右側から凌先輩、左側からは龍牙がそれぞれにじりじりと間を詰めて来る。
龍牙は鬼の形相をしているし、凌先輩は穏やかに笑っているようにも見えるけど、その笑いはとてつもなくどす黒い。

凌先輩は言わずもがな森本よりも年上で狂犬と呼ばれていたし、龍牙は森本よりも年下だけど二年生では最強と噂されている。
事実、いよいよ貞操の危機だと言う場面で俺は二人に助けられて来ていたりする。

「べっ、別に俺はタイマンを張るつもりはなくて、ただ瀧川に……」
「「失せろ」」

そんな二人の声が見事に重なって、

「…クソッ!」

森本は悔しそうに唇を噛みながら行ってしまった。

「はあ…助かった」

力が抜けた俺は、そう言いながらその場にへたれ込む。

「あれ、凌先輩?」
「なんだ。龍牙か」

どうやら二人は示し合わせたわけではないようで、俺の頭上で顔を見合わせて目を丸くしていた。

「凌先輩、龍牙もありがとう。助かったよ」

ケツに付いた土埃を掃いながら立ち上がると、凌先輩と龍牙、二人が同時に溜息をついた。

「…っとにお前は相変わらずだな」
「そうだそうだ。兄貴、何人に告られりゃ気が済むんだよ」

それは俺のせいじゃないっつーの。
屋上で鈴木に襲われてから、何度も同級生や在校生に呼び出された。
その度に告られたり襲われたりしたけど、なんとか貞操だけは守って来たのだ。

俺だってな、男から告られるなんて御免被りたいっつーの。

「何人目だっけ?」
「な、何が」
「告られたの」
「え、えっと……」

んなのいちいち覚えてねえけど、多分、10人以上には告られたと思う。
全員が全員、タイマンを張ったり犯されたりしたことがあるやつで、ダチと言うよりは敵対する相手だ。
因みに凌先輩もそうだった。

「じゅ、10人ぐらいかな?」
「………」
「…多分」
「かまを掘られてはないだろうな」
「あっ、当たり前じゃん!」

ほぼ全員に襲われたけど。

「凌先輩、助けてくれてありがとうございました。龍牙も」

もう卒業生は全員、校門を出終わったかな。

「兄貴」
「ん?」
「このまま行くの?」
「ああ」
「そか」
「うん」

そういや、龍牙は見送りに来てくれたのか。

「凌先輩」
「ん?」
「兄貴のこと、よろしくお願いします」
「ああ、任せろ」
「ただし」
「ただし?」
「…兄貴に手を出したらただじゃおかねえから」

って、龍牙!
おまっ、凌先輩に向かってなんてことを言うんだよ!


Bkm
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