「…ノミ蟲とデートするって、本当なのか?」
 
翌日。静雄と会う約束をしていた私は池袋を訪れ、共に昼食を取っていた。デートに関する臨也の説明が正しければ、これも立派なデートになるのだろう。最も私は、この二人のどちらとも付き合っているという訳ではなく、高校時代からの友人というだけなのだけれど。暫らく他愛も無い話をした後、昨日メールで話した件について静雄が切り出した所で冒頭につながるという訳だ。
 
「何かそういう事になったみたい」
「お前ら…その、付き合ってんのか?」
「いや?別に?」
「は?じゃあ何でデートなんだよ」
「まぁなんて言うかそんなに深い意味がある訳じゃなくて、いつもより遊びに行く先が豪華だから格好付けた言い方をしてるだけだと思うよ」
「臨也の野郎が勝手にそう言ってるだけって事か。解り難い表現使いやがって、殺す殺す殺す殺す…」
「静雄、コップ変な音立ててるよ。割れる割れる」
 
ガラス製のコップには既に細い亀裂が走り、あと少しで静雄の握力によって砕け散るところだったが、寸でのところで理性を取り戻してくれたらしく何とかそれは回避する事が出来た。危ないので店員に頼んでそれを下げて貰いながら、思い出して口を開く。
 
「そういえば、田中さんにお願いしてた件どうだった?」
 
田中トム。ハーフの様なその名の人は静雄が今勤めている職場の先輩だ。顔が広く面倒見の良い人で、街のチンピラや抗争関係なんかにも詳しいらしい。実は私が今大ハマりしているバンドのメンバーも元々はそうしたグループに所属しており、田中さんとリーダーが知り合いだと言う話を聞いて密かにアポイントが取れないかと静雄を通してお願いしていたのである。
 
「あぁ、そういや特別にリハに招待してくれるっつってたな」
「ほほほ本当に!?ひゃっほー!いつ?そのリハいつやるって!?」
「明日。午後五時からだったか」
「なん、だと…」
「悪ィ、言い忘れてた。…何か用事いれちまったのか?」
「さっき話した臨也とのデート…明日の四時から…」
「何だ、ノミ蟲との予定なら良いじゃねぇか。ほっとけ」
「でもクラシックコンサートに高級ディナーとホテルのスイートルームだよ…!」
「どうせ何か裏でもあんだろ、妙な事に巻き込まれねぇうちに止めとけって」
「やっぱそうだよねー…」
 
その後も暫らく会話を続け、午後の仕事があるという静雄と別れた私は自宅への道すがら、散々悩んだ末に携帯を取り出して、アドレス帳を開いた。あいうえお順で真っ先に表示されるその名前を選択してメールを打ち込んでいく。
 
 
“やっぱり明日はパスしとく、デートはまた今度ね”
 

 
 
 
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