22:15
 
「良い?絶対こっち向いたり覗いたりしない事」
「そこまでして君の身体を見たいとは思わないから安心しなよ」
 
ひらひらとわざとらしく掌を横に振る動作付きの否定、これはこれでうぜぇ。然し今はその言葉を信じるしか無いので、取り敢えずまずは脱衣所の扉を鎖が通る幅だけ残して閉め、その隙間と扉の向こうに居る臨也に細心の注意を払いながら服に手を掛けた。
 
「あ、そうだ(ガラッ)タオルとかはそこに置いてあるから」
「ぎゃー!てめ、言った傍からふっざけんな!!」
「何だよ、別にまだ上すら脱いで無いんだから良いだろ」
「心臓に悪いわ!」
 
コイツ絶対わざとやってる。「はいはい、悪かったよ」とか言いつつ全然そんな顔してなかったし、普通に笑ってたし!無駄に時間を掛けるだけ危険だと判断すると、一思いに服を脱ぎ、すぐさまタオルで隠しながら鎖の伸びる限界までお風呂場の方へと向かう。
 
「後ろ向きでだからね!」
「解ってるって」
 
脱衣所の扉が開き、臨也が後ろ向きのまま入ってくる。その分私は更に後退し、お風呂場の中へ。完全に身体が扉の中へ入ったところで、先程と同じく鎖の幅だけ残して扉を閉めた。これで第一関門はクリアである。
 
「で、俺は扉の傍で待ってれば良いわけ?」
「そう。出来るだけ鎖はこっちの方に伸ばしといてよ」
「片腕だけ中に入れた方がさらに伸びるよ?」
「その分ドアも開けなきゃじゃん!寒いし不安だからこれで良い」
「君がそう言うなら別に良いけどね」
「今度さっきみたいにいきなりドア開けたりしたらぶっ飛ばす」
「怖い怖い」
 
けらけらと笑う声に不安は募る一方だが、こうして居ても仕方がない。意を決して扉に背を向け、シャワーノズルを捻った。温かいお湯が降り注ぎ、今日初めて心からほっとした気分になる。が、すぐにはっとして背後へと顔を向ける。磨りガラスの向こうの影はしっかりと後ろを向いていた。本当に覗いたりする気はないらしい。まだ油断は出来ないが。
 
「湯加減はどう?」
「ん、悪くない、気持ち良い」
「それは良かった。シャンプーとかはボトルみれば解ると思うから」
「…うわ、何これ。CMとかに良く出てる超高い奴じゃん」
「一応、俺も髪とかには気を使ってるからね」
「さらっさらだもんな、男の癖に」
「その言い方はちょっと差別染みて聞こえるよ」
「じゃあ臨也の癖にって言い直すわ」
「君って本当に俺に対して容赦無いよね、流石の俺も傷付いちゃうよ」
「そしたらアンタに振り回されて傷付いてる人の気持ちが少しは理解出来るかもね、静雄とか」
「…そこでシズちゃんの名前出さないでくれるかな、不愉快だ」
「自業自得でしょ」
 
扉の向こうが静かになりました。
 
next!!
 
 
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