更に幾日かの時が過ぎ、梅雨ももうじき終わろうかというように雨の頻度も徐々に少なくなり、次第に夏の暑さが本格さを増しつつあった頃。事態は思わぬ方向へと展開をみせた。
 
それは天気予報が外れ、予想外の雨が降り出した日の事。幸い仕事は休みであった為、急いでリヴァイを迎える準備をしていた所、丁度垣根を潜る姿が見えた。然しいつもと違ったのは、リヴァイの後に続くようにして、一匹の犬が現れた事である。中型犬とでもいうのだろうか、犬に詳しい訳では無いので犬種までは解らないが、そこまで大きい印象は受けない。とはいえ猫であるリヴァイと比べればその差は歴然なのだが、まだ成長途中であるような若々しい印象を受ける、翡翠色の大きな瞳が特徴的な犬。もっともそういった事柄は全て後になってから思った印象であり、その犬が庭に現れた瞬間に感じたのは疑問でも恐怖でも無く、驚愕だった。何故ならその犬は全身に怪我を負い、身体中が血塗れの状態だったのである。思わず言葉を失う私の目の前で、その犬は震える足取りで数歩こちらへと近寄って来た後、そのままばったりと倒れ込んでしまう。そこで漸く我に返り、慌てて窓を開け放ってリヴァイ達の元へと駆け寄る。
 
「こ、これ、一体、何があったの…っ!?」
 
思わず口から疑問が飛び出るものの、当たり前だがリヴァイは何も答えてはくれない。リヴァイの毛にも所々血が付いている事に気付き、一瞬ぎょっと胆の冷える思いをしたが、どうやらその血はこの犬のものらしく、リヴァイは何処も怪我を負っている様子は無い。
 
犬と猫。通常は相容れぬ二匹が何故この様に行動を共にしているのか、何故リヴァイはこの犬を連れて私の家へとやって来たのか。次から次へと疑問が浮かび上がるものの、それらに関して深く考えるより先にまずはこの犬を介抱しなければと、普段ならば一切縁の無い近所の動物病院の場所を瞬時に脳内へと思い浮かべながら、気を失ってしまった犬を抱き上げる。そのまま室内へと駆け戻ってバスタオルでその身を包んでやり、財布や鍵といった最低限の品々を鞄に放り込んだ所で窓辺を振り返ると、窓が開いているにも関わらず、リヴァイは部屋に入らぬまま外にぽつんと佇んでいた。
 
「おいで!」
 
咄嗟にそう呼び掛けると、微妙な間を置きながらもリヴァイは室内へとその足を踏み入れる。リヴァイも共に連れて行くべきかと思ったが、犬一匹を抱きかかえるだけでもそれなりの重量がある。車でもあれば良かったのだろうが、残念ながら免許すらも持っていない為、已む無く家で待たせる事にする。
 
「良い?すぐに戻って来るから、大人しくここで待ってて」
 
窓を閉め、鍵を掛けながらリヴァイに告げる。こんな事を言った所でリヴァイが解ってくれると思った訳では無いけれど、そうせずには居られなかった。灰色の瞳が微かに不安で揺らいでいたように見えた気がしたから、かも知れない。リヴァイの頭をそっと撫で、もう一言だけ付け足して置く。
 
「大丈夫、あの子は絶対に助けるから」
 
そして私は怪我をした犬を抱きかかえ、降り頻る雨の中を全力で駆け抜けた。

 
 

 

【気違い雨】 思いがけないときに突然降ってくる雨
140316
 
 
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