話しに区切りが付いた所で、私は一つだけ、ずっと気になっていた事を口にする。
 
「あの…カンベエさん。此処に来る前、街でカツシロウさんの姿を見かけたんですけど…皆さんと一緒では無かったんですか?」
 
それを聞いた途端、キュウゾウさんやアヤマロさんを除く全員が、何とも言えない表情を浮かべる。瞬時に何かがあったのだと理解するも、一度言葉にしてしまった以上、取り消す事も出来ない。キララさんやマサムネさんがさも言い辛そうに視線を逸らす中、カンベエさんは何処か遠くを見詰める様にして、
 
「カツシロウは、早まった。…ただそれだけの事だ」
 
そう口にすると、休息を取る為か、座敷を後にして行った。釈然としない私に、キクチヨさんとマサムネさんが大まかな経緯を説明してくれる。蛍屋についた後、カツシロウさんは一人で都に乗り込んだ挙句捕らわれの身となり生き恥を晒す事になったカンベエさんを激しく責め立てたそうだ。そのあまりの言い分に、思わずキララさんはカツシロウさんの頬を叩いてしまった。激情に駆られるまま蛍屋を飛び出したカツシロウさんをキララさんがすぐに追っていったものの、結局はそのまま、カツシロウさんは一人で旅立ってしまったという。次の戦場を求めて。
 
私が話しを聞いている間、キララさんは一言も発する事無く、終始思い悩んだような表情を浮かべて顔を伏せていた。また自分の責任だと己を責めているのではないかと思った私は、食後、キララさんをお風呂に誘う事にした。
 
 
 
「…足の怪我…すっかり、良くなられたんですね」
「え?あ、はい。お陰様で…」
 
キララさんが私の右足をじっと見詰めているのに気付き、私は村で怪我を負っていた事を思い出す。ゴロベエさんを助け、紅蜘蛛の銃撃に巻き込まれたあの時。キララさんはそれを見ていた訳では無かったものの、気を失っていた私が意識を取り戻した時にはすぐ傍に居たため、当然怪我の事は知っている。私の足が、機械…義足であることも。但しその怪我は体内のナノマシンによってすぐに修復がなされてしまったが為に、私自身は怪我そのものの事を忘れてしまっていたのだ。どうやって直したかを尋ねられた場合なんと答えたら良いかと悩んだものの、何故かキララさんはそれ以上何もいうことはなかった。
 
かけ湯で身体の汚れを流し、石鹸を泡立てた布で洗っていく中、私はさり気無いつもりでキララさんに尋ねてみる。何かあったのか、と。キララさんはぴくりと跳ねるようにして小さく肩を揺らしたかと思うと、やがてぽつりと呟くようにして言った。
 
「カツシロウ様に、共に来ないかと、言われたのです」
 
その言葉で、私は村でカンベエさんとキララさんが話しをしていた時、オカラちゃんが言っていた事を思い出す。
 
『これは拗れんなぁ』
 
その時はすぐにその意味を理解することが出来なかったものの、今となっては薄々気が付いていた。カツシロウさんが、キララさんを慕っている事。そして、キララさんは―…
 
「婆様にも、ユキノさんにも、言われてしまいました。…ナマエさんも、もうお気付きになられて居るのでしょう?」
「何となく、ではありましたけど…」
 
キララさんは、カツシロウさんでは無く、カンベエさんの事が好きなのだと。
 
「お恥ずかしい話し、ですよね」
「そんな、事は…」
 
無い、と言い切る事の出来ない自分を悔やむ。私と同じ年頃だろうキララさんとカンベエさんとでは、二回り以上も歳が離れているように思う。驚かないと言えば嘘になる。けれど、私は身体についた泡を洗い流しながら言う。
 
「でも…誰かを好きになる気持ちは、そんな事では押さえられないものだと、思います。それは、誰に咎められるものでも無い筈です」
 
そうしてすっかり身体を洗い終わっても、キララさんは黙ったままだった。私は少しばかり戸惑いながらも、一足先に湯船へと浸かる。やがてキララさんも私の隣へと身を沈めると、躊躇いながら口を開く。
 
「…ナマエさんも…どなたか想われる方が、いらっしゃるのですか…?」
「えっ?」
「あ…いえ。何でもないんです…」
 
その言葉に私が驚いた表情を浮かべると、キララさんは慌てて顔を伏せてしまった。恥ずかしい事を聞いてしまったとばかりに。私自身はと言えば、キララさんの質問がただ予想外だっただけなのだけれど、改めて考えて見ると、浮かばない顔がないと言うわけでもない。けれどそれが恋愛としての好きなのかどうかはまだ解らなかった。お互いに気まずい空気のままお湯に浸かり、帰りの遅い私達を心配して様子を見に来たユキノさんに声をかけられるまで、上がることも出来なかった。
 
 
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