Flagment Orpning Story


 フラグメントは尚も語り続ける。
そこは薄暗いバーの一角であり、語っている男は少年であり聞き手は老人が多かった。
 酒の危険な香りがあちらこちらで立ち込め葉巻の煙が立ち上る。
そんなバーの小さな壇上に少年は上り語っている。
「罪は罪を連想し、人はその物語に惹かれるように出来ている。」
 語る声はまだ若々しく、張りがある。
「例えば、こんな話は如何だろうか?」
 ――肉親を殺した毒の花。
 ――劣勢の中、怒りに身を委ね命を狩る将軍。
 ――命すら自在に手に入れようとした皇帝。
 兄殺しから始まった人類の物語を模倣する狂おしい程に美しい、一遍の物語の断片。
芸術の様な物語。
 そこまで語ると少年は黒髪を手櫛ですき、観衆 に向き直る。
「何故、罪の物語は受け継がれるのだろうか?」
 観衆は隣の人と口々に語りだしたようだ。
「まあ此処にいる人々にはお分かりかもしれないが」
 酒と煙草。そして隠し切れない罪の匂い。
少年は数秒の間を空け次の内容を語り出す。
 ――愛に溺れ、沈んでいった傾国の皇女。
 ――ありとあらゆる生物を喰らいあわせ合う彼。
 ――自ら生存する気力すらない少年達。
 ここで彼は、自分は違うと注釈を口に出す。
その声に観衆は軽く笑う。彼も軽く苦笑いをその顔に浮かべた。
「原初の大罪すら芸術家は題材とする」
 改まった口調で再度語りだす。
「美しい作品には罪がある」
 ――彼の者達は競い合う、互いに正負様々な感情をもって明確な終わり の無いそれぞれの境地へ。
飽く事も無く、嘆く事も無く、禁忌等気にも止めず。
生きている限り創造を止める事はない。
 そう語る少年の目は輝きに満ちていた。
「生きる限り創造を止める事は無い、そうは思いませんか?」
 答える声はどこにもない。
座っていた観衆はいつの間にか入れ替わり、ついには一体の人形になっている。
「もう、そんなに時間がたってしまったのか」
 小さくつぶやいたその言葉には悲しみの色があった。
「何故創造を止めないか?」
 バーの、いやバーだったものを後にし少年は歩き始める。
「何故なら、いつの時代も彼らの起源は嫉妬と忍耐なのだからね」
 もはや見知った人間が一人もいない街を一人きりで歩く。
この時代の芸術はどんなも のかと楽しみにしながら歩みを止めずに進んでいく。
「僕の物語も忍耐の物語だからね」


written by 如月綾女様(Guest)

(1/126)

* 前へ 目次 次へ #

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -