やっぱり最強!!私が天下の暴君だ!!
キン、カン、と頭上で聞こえていた金属音が不意にやんだ。
それを少し離れた場所から見上げていたのは山吹色の着物を纏った七松小平太その人。
しかし彼は彼本人が決してしないような笑い方で、両脇を固めていた美青年と美少年になにやら指示を出し、ゆっくりとした足取りで宿屋に向かい歩き出す。
美青年に先導されるまま、山吹色が裏通りを抜け、商店街を通り、目的の宿の前に辿り着く。
「ひかえい、ひかえーい」
「頭が高いぞ愚民共が。このお方をどなたと心得るのだ」
逆光の中、颯爽と現れた3人と発したくてもなかなか発する機会がなかったセリフに脱力していた留さんと文さんが息を呑む。
「「なっ…」」
「おお?」
「想像以上www」
やる気があるのかと問いたくなるくらい棒読みでひかえおろーうと言うのは、留さんとそっくりな格好をしてはいるが柔らかくうねる灰色の髪をした美少年。
そしてその対面に立ち、何かどこかで見たことがあるよーなないよーな印籠をかざすのは、文さんとそっくりな格好をしているが線が細い美青年。人を見下しくさっている物言いがよく似合っている。
その中央にざっと現れたのは、どこからどう見ても七松小平太…だが本物よりも少しだけ小柄で、本物よりも気だるそうな目をしていた。
往来で、まるで境界線でも張られたかのようにお互いの偽者と睨み合う暴君御一行。
その睨み合いに終止符を打ったのは、遊だった。
「すいませーん!!私うっかり担当ですが、不運とトレードいかがっすかー!!」
その一言で、暴君御一行は目を見開く。無言の訴えにちょっと戸惑った遊だが、だってだってと唇を尖らして勢いよく偽者御一行を指差す。
「あっちのご隠居のがちょっと小柄で被害少なそうだし、文さんと留さんの偽者もあっちのがイケメンだし、個人的に御庭番のお姉様が好みですおっぱい揉ませてくだしあ!!!」
「バッ…おま、でかけりゃいいってもんじゃねーだろ!!三葉のが可愛いだろJK!!」
「そうだそうだ留さんもっと言ってやれー!!」
「いや、伊作はこっちサイドじゃないだろ」
「おやまあ仙さん、じゃあ僕あっちに行きたいです」
「いやいや喜八郎、お前がトレードされたらダメだろう。うちにうっかりは2人も要らない」
「兵助、私、向こうの風車がいいわ」
「俺も向こうの陽炎がいいです澄姫さん」
現場は一気に大混乱。遊の一言で何故か花一匁のようになってしまった暴君御一行と偽者御一行はあいつがいいこいつがいいと大騒ぎ。
偽者御一行の仙さんと喜八郎が三葉を囲い込み、偽者御一行御庭番の兵助が豆腐で餌付けを試みる。
偽者御一行の御庭番澄姫はきわどい忍装束で辛うじて覆われている細腰に遊を纏わり付かせたまま風車の長次を口説く口説く。
出遅れた留さんと伊作が三葉のそばに寄ろうとし、完全に置いてけぼりの文さんがなんだこのカオスと呟いた時、ゴシャリと物凄い音が町中に響き渡った。
「うるさいうるさい、うるさーい!!」
「ちょwww長椅子粉砕www」
暴君の怒鳴り声と長椅子が粉砕した音で、しんと静まり返った両軍。
それを見て満足そうに頷いた小平太は、コホンとひとつ咳払いすると自分とそっくりな顔をした山吹色の着物をガッと引っ掴む。
「え、ちょっと、あの…」
「お前が私の偽者か!!」
有無を言わせぬ目付きで問い質す小平太に、偽者は短い悲鳴を漏らすと自らの顔に手を掛けて勢いよく引っ張った。その下から現れたのは、少し前に通り過ぎた庄屋の主人によく似た顔。血色は少々悪い。
「ああああのですね、私は別にそんな悪巧みとかは考えてなくてですね、あの、その、そう!!ご老公の世直しの旅に感銘を受けてですねえーとこの変装はその私のただの趣味みたいなもんでして決して悪意があったわけではなk」
「おだまんなさいよ!!」
「ブヘッ!!」
つらつらとまあよく回る口を平手の一発で黙らせた小平太は、にっこりと笑ってご老公を騙る偽者、鉢屋三郎を見る。その姿はまさに暴君。
「よくわからんが、私が本物だ!!」
「そ、それはよく存じております…!!」
「私はな、権力をかさに弱い者イジメする輩が大嫌いだ!!」
「うわあああごめんなさいごめんなさいごめんなさいもうしません!!」
恐怖のあまりガタガタと震える三郎にぐいと顔を近づけた小平太は、サッと笑みを掻き消して低い声で唸った。
「それがどんなに偉い奴でも、どんなに巧妙に悪事を隠しても、私が絶対に許さない」
その声で、固まっていた留さんがハッとする。
「ええい、ひかえい、ひかえーい!!」
よく通るその声に、文さんもハッとして懐から印籠を取り出した。
「このお方をどなたと心得る!!恐れ多くも天下の暴君、七松小平太公にあらせられるぞ!!」
太陽光に照らされて、眩しく輝く印籠には立派な七つの松印。
それがどこかで見たことあるよーなないよーな葵の紋所のように配置されており、遊は静かに噴き出す。
ぱっと見は完全に先の副将軍だけど、なんかどっか違う。
そう思ったものの、世渡り上手な彼女は決して口には出さない。
「とりあえず勧善懲悪だ!!くらえイエローゲート印籠破(物理)」
「痛い!!」
「ああ、でもその変装の腕は見事だから、お前今日から暴君御一行公認の偽者になれ!!勿論拒否権はありません!!」
快活に笑って三郎に印籠破(物理)を一発叩き込んだ小平太は、彼を離して満足そうに頷いた。
「これにて一件落着、平和が一番!!なっはっは!!」
「ぐふぅ…!!」
こうして水戸の暴君は今日も諸国をうろつき、西や東で見つけた悪い奴等を(自らの拳で)懲らしめ、人知れず虐げられ、苦しみを心の中に抱くか弱き民を救うのであった。
−へいわがいちばん! 完−
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