FULL MOON NIGHT

今は昔、『竹取翁(本名:食満留三郎)』という者がおりました。
留三郎の仕事は、山で取って来た竹でかごやザルを作る事です。

ある日のこと、留三郎がいつもどおり山へ行くと、1本の竹の根本がぼんやりと光り輝いてました。

「な、なんだあの妙な竹は…」

留三郎は訝しそうに眉を潜めつつも気になり、その光る竹を切ってみることにしました。
ぱこん、と小気味よく斧を入れれば、あっという間に光を失った竹。

「きゃあ!!ちょっと危ないじゃない、何するのよ!!」

なんと竹の中には大きさが三寸ほどの、目が眩むほどの美貌の幼女が入っていたのです!!幼女は開口一番留三郎に怒鳴ると、見事な右ストレートを彼の頬に叩きつけました。

「グボハッ!!幼女っょぃ!!…しかしまー、こんなちびっ子を放置する訳にもいかねぇし…仕方ねぇ、連れて帰るか」

小さな子供が大好きな留三郎は、誘拐犯だの変質者だの叫んで暴れる幼女を抱え、いそいそと家に連れて帰りました。
留三郎が連れて帰ってきた幼女を見て、おばあさん(本名:善法寺伊作)もドン引き大喜びです。

「留さん、まさかとは思っていたけど遂に…ロリ誘拐は立派な犯罪だよ!!」

「まさかとはってなんだよ伊作!!違ぇよ!!かくかくしかじかでだよ!!」

「竹から幼女って…言い訳ならもっとマシなことを」

「だから違ぇっつの!!オイそんな目で俺を見るな!!」

留三郎と伊作は多少揉めたものの身元がハッキリしない幼女を放置することも出来ず、仕方なく自活できる年になるまで育てることにしました。

幼女が家にやって来た翌日から、彼らの身に不思議な事が起こるようになりました。留三郎が竹を取りに行くと必ず何か厄介なことが起こるのに何事も起こらず無事に家へ帰れたり、家にいるだけで不運な目に遭う伊作が平穏な日常を過ごせるということが何度もあったのです。
おかげで無駄な出費が嵩まなくなり、留三郎たちはたちまち大金持ちになりました。
また不思議な事に、あの幼女はわずか3ヶ月ほどの間にすくすくと育って、それはそれは美しい娘になったのです。
大きくなった娘は、見る者を何ともいえない眼差しで捉え、その心を掻き乱してくれました。その美貌たるや、まるで澄んだ水のような涼しい美しさ。
そこでその娘は『澄姫』と名付けられたのです。

その美しい澄姫を、世の男たちが放っておく訳がありません。
多くの若者たちが留三郎の家にやって来ては、澄姫をお嫁さんにしたいと言いました。そしてその多くの若者たちの中でも特に熱心だったのが、次の4人の王子たちです。
彼らは名前を、立花仙蔵、潮江文次郎、七松小平太、中在家長次、と言いました。各々身分がとても高く、そして超がつくほどの大金持ちです。

「より取り見取りだな、澄姫」

「4人は皆それぞれに凛々しいし立派な方たちだね。澄姫はどの殿方が…澄姫?」

ニヤニヤと笑った留三郎。穏やかな笑みを浮かべた伊作が問い掛けると、目隠しの奥でいつもと違いどこかぽんやりした澄姫。何度か伊作に名前を呼ばれ、やっと気がついた澄姫は、ひとつ咳払いをして答えました。

「い、今から私の言う『世にもめずらしい宝物』を探して持って来た殿方のところへ嫁ぎます。その宝物とは…」

話を聞いた留三郎は、ニヤニヤ笑いをますます深めて4人の王子たちに澄姫の言葉を伝えました。

「お前ら、澄姫からの伝言だ。仙蔵は相模の山奥にいる山ナメクジを、文次郎は仙蔵の宝物を、小平太は百点満点の答案用紙十枚を、そして長次は隣町で売ってる草団子をそれぞれ持ってこいってよ」

それを聞いた4人の王子たちは、思わず目を見張りました。

「や、山ナメクジ…とはあの、馬鹿でかいナメクジか…!?」

「百点満点を十枚!?ご、合計で百点じゃダメか…?」

「仙蔵の宝物ってなんだよ!!というか長次、お前だけ簡単すぎるだろ!!これ出来レースじゃないか!?」

トラウマを刺激された仙蔵と、まさに無理難題を突きつけられた0点チャンピオン小平太は顔面蒼白、文次郎は澄姫と仙蔵からの報復を天秤にかけ作戦を『いのちだいじに』に変更して同じく真っ白。

「…隣町の、草団子……」

そしてひとりだけハードルがめちゃくちゃ低い長次は隣町に草団子を買いに出かけていきました。
後日、まずは仙蔵が相模の山奥に行って苦労の末なんとか山ナメクジを捕獲し、澄姫のところへ持って行きました。

「こ、これでいいのか…!!」

仙蔵が山ナメクジを差し出すと、澄姫はなんともいえない微妙な笑顔で満身創痍の仙蔵に言いました。

「お見事………と言いたいのだけれど仙蔵、小脇のその子達はどうしたの?」

「離れてくれんのだ…!!」

「お疲れ様。…でもごめんなさい、私、子持ちはちょっと…」

「グスッ…喜三太、ナメクジはお前にやる。しんべヱ、うどんでも食って帰るか…」

「「わぁーい」」

2人の少年を引き連れ寂しそうに去って行った仙蔵を見送った文次郎は、結局悩みに悩んだのですが仙蔵の宝物がわからず、とりあえず彼の作った宝禄火矢を山のように持って来ました。

「おらよ」

「…文次郎。貴方鍛錬のし過ぎで脳味噌まで筋肉になっちゃったのかしら?仙蔵の宝物が宝禄火矢なわけないじゃない」

「他に思い当たるもんがねえんだよ!!生首フィギュアか!?それともあの髪の毛か!?」

「貴方仙蔵を一体なんだと思ってるのよ」

有無を言わさず文次郎を一蹴した澄姫は、元気よく十枚の紙を持ってやってきた小平太に向き直りました。

「さあ、小平太。私のために少しは頑張ってくれたのかしら?」

「まあ見てみろ!!」

「どれどれ………小平太。私は百点満点の答案用紙を持ってこいと言ったはずだけれど?十枚あわせても百点ないわよこれ」

「細かいことは気にするな!!」

「ちっとも細かくないわよ」

「なははは!!あーなんか久々に勉強したらうずうずしてきた!!私ちょっと走ってくる!!」

開き直りにも見える大笑いを発した小平太は、いけいけどんどんと叫びながら帰って行きました。
そんな彼と入れ替わるようにやってきた長次は走り去る彼に不思議そうな顔をしたものの、懐から草団子を取り出し、澄姫の前に恭しく差し出しました。

「……ご所望の…隣町の、草団子です…」

「まあ何ておいしそうな草団子。ではお約束通り、私をお嫁さんにしてくださるかしら?」

「………喜んで…澄姫」

「長次…!!」

こうして4人の王子のうち、中在家長次が(完全なる出来レースではありましたが)無事に澄姫をお嫁さんにしました。


しかし、まだお話は終わりません。澄姫が彼に嫁いでから3年の月日が経った頃、彼女は月を見ては涙を流すようになりました。
心配した長次が彼女にどうかしたのかと尋ねますが、澄姫は何も言わず、光の玉のような涙をはらはらと流すばかりでした。

そんなある夜、澄姫は重たい口を開き、長次にやっと泣いている理由を話しました。

「長次…実は私は、この世界の者ではないの。私はあの空で光り輝く月の都の住人…今度の十五夜に月の都から迎えが来るわ。きっと月の都に連れ戻されてしまう…そうすれば、もう貴方と一緒にいられない。それがとても苦しくて辛くて悲しくて、泣いているの」

まるで夢物語のような話で、長次は驚き言葉を失いました…が、ゆっくりと瞬きをすると、震える彼女の肩をそっと大きな手で包み込みました。

「……大丈夫だ…澄姫は私の、大切な、妻……必ず、守ってやる…」

「長次…!!素敵過ぎて心臓が止まりそう…!!」

「………それも、困る…」

そこで長次は留三郎と伊作だけではなく仙蔵、文次郎、小平太にもお願いをして、月の都から来る迎えを追い返す事にしたのです。
十五夜の夜、長次は澄姫を守るように、しっかりと彼女を抱き締めます。
やがて月が明るさを増し、空がまるで昼間のように明るくなりました。
すると雲に乗った月の都の迎えが、ゆっくりとゆっくりと澄姫の元へとやってきたのです。

「おほー!!お久し振りです澄姫先輩!!」

何も知らず呑気に手を振りながらやってきた月の都の迎えは屋敷の上空でとまると、留三郎にこう言いました。

「澄姫先輩を迎えに来ました!!さあ、澄姫先輩を渡し、えっ、ちょ、うぉっ…!?」

留三郎と伊作は月からの使者に『強く生きろ!!』と声を出さずに激励を飛ばします。そんな2人の背後から伸びてきた、1本の逞しい腕。

「たーけーやーくん。あーそーぼー」

無邪気なその声に、使者の顔から血の気が一気に失せました。
目だけが笑っていない小平太にしっかり腕を掴まれてしまった使者は、なす術無く暴君満喫ツアーへ。響いた悲鳴に上空で待機していた他の使者たちも顔面蒼白で慌ただしく月に帰っていきました。

「お迎えがハチでよかったわ。あの子なら丈夫だから小平太に遊ばれたところで死にはしない……と、いいけれど」

「それ願望じゃないか!!だ、誰か止めないと!!」

「……彼は…尊い犠牲に…」

「長次がそれ言っちゃダメだからね!?元はといえば君が澄姫を守るためとはいえこんな最凶防壁を張るから…ああもう、小平太!!それ以上やったらダメだったら、ぅわ!!」

救急箱を持って駆け出した伊作がすっ転び、またかと留三郎が頭を抱えます。文次郎が呆れた顔で眺める中、小平太と仙蔵が月の使者ととぉっても楽しげに戯れていました。
なんともにぎやかしい月夜の晩、毎晩のように泣き暮れていた澄姫の顔には、久々に晴れやかな笑顔が浮かんでいます。

「…本当に……よかったのか…月に、帰らなくても…」

「勿論」

今宵の月のように煌く瞳を長次に向けた澄姫は、彼の腕を腰に回させ、栗色の髪から覗く耳に唇を寄せました。

「だって、月の都よりも美しくて尊くて離れがたい場所を見つけてしまったもの」

蕩けるような甘い囁きを吹き込んだ澄姫は、輝く月にもう未練はないとばかりに背を向けて、長次の首にしがみ付きましたとさ。

めでたし、めでたし。

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かぐや姫パロディ。随分と性格の歪んだかぐや姫と個性的な王子様ですね!!帝も出ないしね!!
あんず様、リクエストありがとうございました


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