貴方とお揃い。

突き抜けるほど青い空。ところどころにぽかりと浮かぶ小さな白い雲を自室前の廊下から見上げ、私はぱたりと静かに扉を閉めた。

今日は休校日。
そして、澄姫と出掛ける約束をした日。

身支度を整えながら、自分には勿体ないほど美しい恋仲を思い浮かべる。待ち合わせの時間まで、あと四半刻。きっと彼女は今頃、こんな自分のために着飾ってくれているのだろう。
それを考えると、普段ならたった四半刻と感じる時間さえもまるで永遠のように思える。
意図せず浮き足立ってしまう心に、こんな自分を見たら友人や後輩たちはきっと目をひん剥いて驚くことだろうと想像し、眉間に小さく皺が寄る。

「ふぁぁ…長次、朝早くからご機嫌だなあ」

襟元を直し、静かに部屋を出ようとしたその時、同室の友人が起き抜けの掠れ声で小さく笑ったので、私は起こしてしまったことを小さく詫びた。

「ああ、大丈夫だ。今日は一日文次郎と鍛錬の約束してたから、丁度いい」

そう言って起き上がった小平太は、まだ眠気が抜けない眼を擦り、小さく手を振っていってらっしゃい、と笑った。

「………いって、くる…」

そんな彼に小さく手を振り返し、ちょっと早いが、私は待ち合わせ場所の正門へと向かった。







優しい風が髪を撫で、暖かな日差しが頬を包む、絶好の外出日和。
そんな今日の天気とよく似た笑みを浮かべる事務員が差し出す出門表に記入をしていると、いつの間にか敏感になってしまった気配がひとつ、慌てて走ってくるのを感じた。

「ごめんなさい、待たせたかしら…ッ」

背中に掛けられた声にゆっくりと振り向き、小さく首を振ってから、微かに息を切らしている澄姫を見つめる。きっと、自分のためにくのいち長屋から走ってきたのだろう。
いつもは結い上げている髪を下ろし、うっすらとしか化粧を施していないはずなのに、その印象の違いに思わず息を呑む。
最近気に入っているらしい渋緑色の小袖に、朱色の肩掛け…ともすれば実年齢より上に見られそうな格好だが、彼女の細腰に巻かれた淡い桜色の帯が、まだ年端もいかない少女なんだと小さく主張していた。
出門表に記入している彼女に気付かれないように、それでもじっとその姿を眺めていたら、くるりと振り返り、目が眩みそうなほど眩しい微笑みを向けられてしまった。

「長次、私服も素敵ね」

「……澄姫も、よく似合っている…」

ちょんと遠慮がちに私の袖を摘んだ彼女が愛らしすぎて、つい何度も繰り返した褒め言葉を使ってしまった。しかしそんな使い古した言葉でも、澄姫はとても嬉しそうに笑ってくれる。

「嬉しい。この小袖、気に入っているの。……色が、6年生の装束に似ているでしょう?」

「………言われて、みれば…」

くのいち教室でも珍しい最上級生の彼女には、同級生がいない。だからこそ、忍たま6年生とよく一緒にいるのだが、やはり性別の壁は大きいのだろう。どう足掻いても完全には埋まらない溝を、せめて色で縮めたいのだろうか。
同級生がいる自分には理解してあげられない寂しさを思い浮かべたが、しかし、彼女の表情からは寂しさなど微塵も窺えない。そのことに小さな疑問を感じた時、澄姫が小さく呟いた。

「…ああ、でも……今度は私、」

青色の小袖を、買おうかしら。
そう呟いて俯いてしまった澄姫。

一呼吸置いてやっと彼女の言葉の意味を正しく理解した私の頬が、どんどんと熱くなる。
しかしそれは澄姫も同じだったようで、赤くなった頬を誤魔化すかのように瞳を伏せて肩掛けを直している。
愛しい愛しい、言葉では言い表せないほど愛しい澄姫の折れそうなほど細い腰を抱き寄せて、私はここが正門である事も忘れ、彼女の頭にそっと口付けた。




−−−−−−−−−−−−−−−
八重様、いつも素敵なイラストありがとうございます!!
お礼にはならないかもしれませんが、お年賀代わりに頂いたイラストが衝撃すぎてなんかお礼をと思いまして!!
短いですが、どうぞお納めください^^
そして、よければまたうちの夢主たちを描いてやってくださいね。

祭より、愛を込めて



[ 155/253 ]

[*prev] [next#]