「蛇骨、着物借りるぞー」
「おうっ……って、はァ!?」
広間でくつろいでいたその他の七人隊。おやじさながらに身体を横たえた蛇骨だったが、リオのいきなりの宣言に跳ね起きた。
「おいっリオ、お前一体何やって…」
ガラ「きゃー!!!」
「おわ、わりっ!!!」
蛇骨は急いで障子を閉めたっ!なんと中では唯がリオに脱がされていたもんだからたまったもんじゃない。
「あ…あいつ…とうとう唯に手ェ出しやがった…!」
こりゃ蛮骨の兄貴に報告しねェと…!!蛇骨はすぐさま蛮骨のもとへと駆け出した!
…そして数分後。
うるさい足音をたてながら唯たちの部屋へと急ぐ蛮骨と蛇骨の姿があった。二人とも顔が真っ赤っか。
「リオが唯を襲ってるって本当か蛇骨!?」
「間違いねーよ、俺この目でしっかり見たもん!」
「あーっくそ!
なんでうちにはお前と言い、リオと言い、そっち系が多いんだ!
とっ、兎に角、唯だけは救出しなきゃならねェ!
急ぐぞ蛇骨っ!」
「おうっ!……って俺なんか貶されてなかった?」
どたどたどた……
「おいリオ!!」
ガラ「あ゛ー!!!」
「! すまねえ!!!」
ぴしゃっ。
「…………」
「…………」
「おい」
「…うん…」
「あらァどうみても唯がリオを襲ってたぞ」
「…うん、知ってる俺も見た」
そして二人は顔を合わせる。
「うぁぁああ!!!!!とうとう唯までが目覚めちまったぁぁああ!!!!!」
「“唯×リオ”とか嘘だろ!?嘘だろッ!?!?誰か嘘だと言ってくれぇぇええ」
「「なんでこうなっちまったんだー!!!」」
「「うるさいっっ!!!」」
バキョキョッ!!!
見事なまでのいい音を出して二人同時に頭を叩かれた蛮骨と蛇骨は床にしゃがみ込んだ。
「何すんだ…よ…?」
「あ…」
振り返った彼らが見たのは、顔に影を作った唯とリオなのだが…。
そんな二人を見るなり、口をぽかんと開けて蛮骨と蛇骨はそのまま固まってしまった。
「…何よ…」
「…文句あっか」
「いや、その…なァ蛇骨…」
「う、うん……(てか俺の着物…)」
二人が言葉を詰まらせた原因、それは唯とリオの格好にある。
リオは唯の制服を着て、普段は絶対に見せないであろう細くありながら筋肉で締まった美脚を披露。妙にすーすーするその感覚に足をもじもじさせて恥ずかしそうにしているのが新鮮だ。
一方の唯は、リオが蛇骨から掻払って来た着物を身に纏う。着物の生地は彼女にとっては大きいものだったが、そこはリオによりうまく着付けられていた。
金糸と銀糸で丁寧且つ繊細に織りなされた花柄を胸元に、それをより際立たせるような模様と色が周りを囲う。
一見して派手な印象を受けるが、実は気品を漂わせる着物であった。
その様子は唯によく合っていた。
「唯…その着物、よく似合う、な」
「…そうかな…?」
ほんのりと頬を赤らめる。
「おめェは不自然感半端ねェけどな!」
などと笑い出した蛇骨はリオに半殺しにされた。
「リオさん」
「ん?」
「着物、着付けてくれてありがとう」
普段七人隊と行動するときは動きやすいからと制服一本の唯。着物を着る機会などめったになかった。だが今こうして着ることで、自分の中にふわりと嬉しい気持ちが生まれる。
「…俺も…な。
本当のところ、このひらひらした“すかーと”…可愛いと思ってたから…」
そして二人は顔を見合わせて、ふふふと微笑んだ。
「ね、そろそろ夕食にしましょうか」
「おーいいね、忍者食?なら俺、前に食ったカレー食いてェ」
「いいよ。あと私の茶碗蒸しもね!」
「え゛」
「ん?」
リオの頭に蘇る紫の発光体…。二度と経験したくない生き地獄再来の危機に、全身からは一気に汗が噴き出す。
そして黙って回れ右。全速力で外へと逃げた。
「あ、リオさん!」
そして唯もあとを追った。
寺を飛び出すと、外はすっかり夜になっていた。しかも一度止んだかに思われた雨が少し降ったのか、地面は濡れて雨上がり後独特の匂いがする。
そして夜のために気温は一層低くなり、昼間同様に濃い霧があたりを覆ったのだった…。
視界は真っ白に染まった。
「…ここまで来りゃ流石に大丈夫だろ。…しかしまた霧かよ…」
これじゃ来た道を戻れやしねェ。そう呟いた時だった。
「あっリオ見っけ!」
蛇骨だった。それに続いて続々と見飽きた顔が。
「おい離れンなって言ったじゃねーか、しっかり付いて来……ってなんだよその格好…?」
「本当だ、変な袴」
「?! なんであんたら此処に…?
つか唯は?」
全員集まった筈なのに唯だけがいない。
「“唯”?誰だよそれ」
霧のせいで幻覚でも見やがったか、と笑い飛ばす七人隊のみんな。蛮骨の一言が、本来リオのあるべき時代、あるべき姿として戻って来たことを暗に告げていた。
そして“唯”という少女が現れるのが、これから未来のことであるということも…。
「リオさん足速いなァ…どこ行ったのかな…?
おーい!!!リオさーん!!!」
行く手を濃霧が阻む。ならばせめて声だけでも届けと大声で叫ぶ。そして木霊する唯の声に乗じて他の人の声が返ってきた。唯はリオだと思い、そちらへ走った。
だがそこにいたのは、蛮骨と蛇骨以下の五人だった。
「おおっ、なんだその格好まるで花魁だな」
「へっ、迷子で遊郭で借りてきたのかよ、どんだけだ!?」
少し怒り口調でありながらも小さい声で、心配したんだからな…と付け加えた蛇骨。唯を発見して安心の溜め息を吐いた七人隊を見て、唯は言った。
「ねぇ、リオさんがいないンだけど…」
その一言で七人隊の表情はぽかんとする。
「リオ? リオは一回時間移動してとうの昔に帰ってったじゃねーか」
だから居るわけがない、と。
蛮骨の一言が、本来唯のあるべき時代、あるべき姿として戻って来たことを暗に告げていた。
視界を白に染めた霧はいつしか晴れ、七人隊の頭上にはどこまでも続く青空が広がっていた。
それは霧が魅せた奇跡の交差
終
__________
アトガキ
祝三周年!!!企画に参加して下さった蓮様ありがとうございましたo(^o^)o
リクエスト内容がamrta連載「同じ空の下で」と拙宅長編「銀月の涙」のコラボ小説ということで、「合縁奇縁」を頂いてる手前、ハードルがかなり高くなってしまったのですが…蓮様、こんな感じでどうでせうか…(´・ω・`)蓮様に限り苦情修正を受け付けます。
それにしても、唯ちゃんのいいところを活かしきれなくて…これは管理人の執筆力の問題です(T^T)でもでも!!!書いててとっても楽しかったです!!!本当はもっともっと絡ませてあげたかった^^;また機会があれば…なんて目論んでいる管理人でございますww
ではでは長くなりました。これからも管理人ともども「硝子玉」をよろしくお願いします。
ちなみにオチはやっぱり唯ちゃんに頼っちゃいました(笑)
20130219
―――
開設当初から仲良くしていただいてる新羅リオさまよりいただきました!
三周年企画ということで畏れ多くも拙宅の連載「同じ空の下で」とリオさま宅の「銀月の涙」のコラボ小説をお願いしたところ、こんなに素敵な作品をいただいちゃいましたよぉぉっ…!
リオさまの書かれる唯キタァァァ!!Σ(・∀・*)天然で少し抜けてる…つまりおバカ(←)なキャラがしっかりと表現されていて感動っ(;∀;) ジーン
そして作中には所々「死亡フラグが立ちました!」や「合縁奇縁」の名場面(?)も隠されているのですよ…!それにもまた感動(;∀;)
唯をこんなに愛らしく書いてもらって、しかも大好きな銀月ヒロインさんと楽しそうに絡む場面にとっても幸せな気持ちになりました///
素敵なコラボ小説を本当にありがとうございました!!
最後にこの度は三周年、まことにおめでとうございました!リオさまの書かれる作品をこれからも楽しみにしております(*^_^*)
2013/02/23 蓮
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