同じ空の下で | ナノ


闇夜に響いた四人の叫び声。
一つは霧骨の驚嘆の声。一つは唯の棒読みの悲鳴。一つは蛮骨の怒号。そして最後に蛇骨の悲鳴。

そのやかましさに嫌でも起こされた煉骨は目を擦りつつも、騒ぎのした方へと向かっていた。銀骨と凶骨を連れてこなかったのは、大事ではないと思ったから。どうせ三角関係の縺れから生じた喧嘩だろう、と。無論予想は当たっていた。現場にたどり着けば、そこには蛮骨に羽交い締めにされている蛇骨とその様子を傍らで眺める唯の姿が。今となってはお馴染みの光景だ。


「お前らいい加減にしろ!こんな夜更けに喧嘩してんじゃねぇよ!」
「んあ゙ァ!?何か文句あんのかよ、煉骨!」
「ありません!どうぞ続けて下さいっ!」
「ひっでーよ、煉骨の兄貴ィ!」


このままでは蛇骨が不憫だとは思ったが、相手が蛮骨であるために何も言えないのだ。許せ、蛇骨!と心中で呟く煉骨。一方で、唯は難しい顔をして蛮骨と蛇骨を見つめている。


「どうした」
『あの二人最近行動が怪しいと思って…。ハッ、もしかして…!』
「…!」


漸く気付いたか。蛮骨と蛇骨――二人の気持ちを知った唯は一体どんな反応を示すのだろう、と煉骨は期待しつつ彼女の様子を伺う。だが――、


『デキてるのか!?』
「……」


あ、駄目だ。駄目だコイツ。想いに気付くどころか、最悪な勘違いをしている。


『まさかあの二人が…。でも、そういう世界もあるのよね?ね、煉骨』
「…俺に聞くな」









*

その後、煉骨の努力により何とか喧嘩は終結し、皆揃って寝床まで戻った。銀骨と凶骨は寝ないで待っていたらしく、戻った四人を快く迎える。


「ギシ?」
「ああ、すまねぇな。もう寝て構わねーぞ」
『起こしてごめんね、銀骨。凶骨も』
「ギシギシ」
「俺には謝らねーのか」
『ごめんね、お母さん』
「誰がお母さんだ」


器用にツッコミながらも、煉骨は地面に転がっている睡骨に冷ややかな視線を向ける。あれ程の騒ぎがあったにも関わらず、睡骨は一度も目を覚まさない。


「人が喧嘩の仲裁してる時に、いい気なもんだ」


体を横にして眠る睡骨を軽く足蹴する。ほんの嫌味のつもりだったのだが、そのお蔭で、いち早く気付くこととなった。睡骨の背中にくっつく様にして存在する“それ”に。


「……っ、は?!」


驚愕、仰天、愕然。驚きの意味を持つ単語は辞書をめくれば数多く存在するものの、この場合は絶句という単語が一番相応しいだろう。ただ単に驚いた、という言葉では片付けられない。睡骨の背後にあるものはそれ程煉骨に大きな衝撃を与えたのだ。


「おっ…おおお大兄貴!」
「あー?何だよ、煉骨」
「こ…、これ…!」
「はぁ…?」


ただひたすら睡骨を指差し、これこれ、と主語だけを伝えてくる。常日頃冷静な煉骨が動揺を示すのは珍しく、その様子を見た唯と蛇骨も何事かと身を乗り出した。


『どうしたの?』
「兄貴が焦るなんて珍しーじゃん。睡骨に眉毛でも生えたのか?」
「そうじゃなくて、睡骨の背中!」
『「「背中?」」』


背中と聞いて蛮骨・蛇骨・唯は同時に首を傾げる。


『「「背中毛…?」」』
「毛から離れろ!!」


何故か毛に執着する彼らに対し、煉骨は声を荒げる。その時だった――、


「…ふぇ…、ぇっ…」


怒声に反応し、突如か細い声が暗闇に響き渡った。


『…今の何?』
「何か、ガキみてぇ声がしなかったか?」
「まさか、ンな所にガキなんざいるわけが…」


そうは言いつつも流石に幻聴とも思えず、謎の声を確認すべく恐る恐る睡骨の背中を覗き込む。


「「『………』」」


刹那、沈黙。三人はポカンと口を半開きにしたまま固まっており、声を出すことすら忘れているよう。無理もない。何せ彼らの視線の先にいたのは見知らぬ子供。まるで父親に甘える子のように、睡骨の背中に付いて眠る幼児の姿があったのだから。

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