鋼牙の爆弾発言にその場はシンと静まり帰った。
『……あ…あはは、鋼牙くんってばまた変な冗談を』
「冗談なんかじゃねぇ」
『へ?』
鋼牙は唯の手を握り、熱い視線で見つめる。
「名前、唯って言うんだな。これからお前には俺の傍にいてもらう」
『……』
口をポカンと開けて立ち尽くす唯。一方で蛮骨は再び恐ろしい顔になっていく。
「鋼牙、てめぇよっぽど俺に殺されてぇみてぇだな」
「やれるもんならやってみやがれってんだ」
「…あ?」
「この女、度胸もあればそこそこ腕もたつ。面白ぇし、器量も申し分ねぇ。おまけに四魂のかけらまで見えるときた」
鋼牙は蛮骨を挑発するかのように笑う。
「てめぇには勿体ねぇ」
「な…んだと?」
蛮骨は顔を引き攣らせた。そして一層殺気に溢れた笑顔を見せる。
「黙って聞いてりゃあ調子のいいこと言いやがって…上等だァ、望み通りぶっ殺してやる!」
蛮竜を持ち直すと、鉾先を鋼牙に向けた。いつ戦闘が始まってもおかしくない雰囲気だ。しかし――、
「『…っ!?』」
唯と鋼牙は息を飲んだ。原因は蛮骨の後ろに突如現れた黒い影。赤く光る目が何とも不気味。蛮骨のすぐ後ろに立っていたのは先程の妖怪だった。
「こんな所に隠れておったか、小僧。四魂のかけらを持った主をそう易々と逃がすとでも思ったのか?」
「ッチ…」
鋼牙は後退りした。一方で蛮骨は俯いたまま黙り込んでいる。
『ば…蛮骨さん?』
「あーあーあー…」
『…?』
「何だか知らねーが、後ろでごちゃごちゃと……
うるせぇなァ!!!」
一瞬のうちに妖怪は姿を消した。蛮骨の怒号とほぼ同時に彼の右腕が妖怪にぶち当たり、妖怪は洞口の外へと飛ばされたのだった。
『あ…あの、何て言うかさ、緊張感を返してください』
*
その頃、煉骨達は忽然と姿を消した蛮骨を探す。
「ったく、どこまで行きやがった」
溜息を漏らす煉骨。その隣で蛇骨が声を上げ、小さな洞窟を指差した。
「あの洞窟の中じゃねぇか?」
「確かめてみるか」
そうして洞窟の方へ足を向けたその時だった。突然彼らの周りにだけ影ができた。
「「「ん…?」」」
見上げた先には黒い塊。その塊は見る見るうちに大きくなり――
「「「うわぁっ!」」」音を響かせ、煉骨達がいるその場に落下した。蛇骨と睡骨は間一髪の所で上手くかわす。
「チッ、何だこりゃ。大丈夫か、蛇骨」
「俺は平気だけどよ、煉骨の兄貴が…」
「……」
煉骨は黒い塊に押し潰されていた。顔から地面に減り込んでいる。
「…思ったんだが、煉骨って毎日が厄日だよな」
*
「邪魔は消えたなァ」
蛮骨は口元を吊り上げ、怪しく笑った。
「とっととけりつけようぜ、鋼牙ァ!」
『ちょっとそんなこと言ってる場合じゃないでしょ』
唯は慌てて彼を引き止める。
さっきあたし達の前に現れた妖怪は二匹だった。だったら少なくともあと一匹はこの近くにいるはず。そんなことを考えていた、その時だった。背後から殺気を感じた。
『きゃっ!!』
「!?」
突然の悲鳴に驚き、二人は睨み合いを止める。先程と同じ成りをした妖怪が唯を捕えていた。
「貴様何者かは知らんが、よくも兄者を…!」
『離して!』
「「…唯!」」
蛮骨と鋼牙は一斉に妖怪へと駆け出した。そしてほぼ同時にそれぞれの攻撃を仕掛ける。
だが、攻撃が届く前にまたしても姿を消す妖怪。
「消えた!?」
「チッ…またか!!」
慌てて気配を探す二人だったが、突然背後から唯の声を聞き取った。
「「!!」」
警戒するも一歩遅かった。バキッという音が響く。
鋼牙は洞口の壁にたたき付けられ、蛮骨は入口まで飛ばされる。
『蛮骨!!』
そのまま洞窟の外まで飛ばされるのではと思われたが、突然現れた人によって蛮骨は運よく受け止められた。
「うっわ大兄貴が飛んできた!!」
「どうしたんだ、大兄貴…」
蛮骨を受け止めていたのは蛇骨と睡骨だった。
「わりィ…助かった。おめぇら二人だけか?煉骨はどうした」
尋ねると二人は無言で親指を後ろへと向ける。その先に妖怪に押し潰された状態で白目を剥いている煉骨の姿があった。また銀太と白角がそんな彼の頭を木の枝で突いている。
「何やってんだ、あいつ…」
蛮骨は呆れた表情でフーと深い溜息をついた。そもそも煉骨があんなことになってしまったのは他でもない蛮骨のせいなのだが…。
「どーでもいいが、早く引っ張りあげて来い」
そう言うと蛇骨と睡骨は互いに顔を見合わせ―、
「いや、何か面倒くせぇし」
「そのままでいいかなァって」
「…そうか、ならそれでいーや」
煉「てめぇらァァッ!!」
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