同じ空の下で | ナノ


『…っな……』


いつの間にか周りには二人を取り囲むようにして熊が立っていた。数は精々ニ十といったところだろうか。ギラリと目を光らせ、こちらを睨みつけている。唯は恐怖で顔を引きつらせた。一方、男は全く動じず、涼しい顔で周りを見回す。


「どうやらここはこいつらの縄張りみたいだな。見ず知らずの奴に荒らされてご立腹ってところか」

『そっ…そんな…』

「…おい、女!今のうちにその刀鞘にしまっとけ」

『え?何で!?』

「いいから!早くしろ!」

『…う、うん…』


疑問を抱きつつも、一先ず男の言うことに従った。刀を鞘に納めるとチャキンと金属音が響く。その時だった。金属音に反応したのか、熊たちは一斉に唸り声を上げる。そしてその中でも一際大きな熊が勢いよくこちらに突進してきた。


『うっ……こっち来たァ!』

「フン…」


男はニヤリと笑うと、熊と向き合う。逃げる気はないのだろうか、無防備で立ち尽くしている。


『ちょっと何やってんの!?逃げなきゃ…』

「おい…俺を誰だと思ってやがる」

『え……?』


いよいよ激突するかという時、男は突如姿を消した。
一瞬の事で何が起きたか分からず、目を丸める。熊もまた起き上って男の姿を探した。
だが、そんな熊の背後に突如小さな影ができた。その影は見る見るうちに大きくなっていく。なんだろう…と空を見上げると同時に目を見開く。男は既に熊の頭上にいたのだ。



「俺は妖狼族若頭、鋼牙!」


そう叫ぶと、熊の頭に踵を振り落とした。刹那、地割れのような激しい音が響き、土埃が辺りに舞う。




しばらくして埃が晴れると熊は地面にめり込んでいた。熊の頭から足を離すと男は不敵に笑う。


「こんな雑魚に負けるわけねぇだろ」

『……妖狼族…?』


唯はその男、鋼牙の強さとスピードに圧巻された。だが、息をつかせる暇もなく残りの熊が一斉に突進してきた。


「……よし、じゃあ行くか!」

『……へ?』


鋼牙は突然唯の体を抱きかかえる。


『うわぁっ!』

「しっかり掴まってろよ!」

『なっ…何を……』

「行くぜ!」


唯の話を聞かず、彼は勢いよく地を蹴る。同時につむじ風を巻き起こし、猛スピードで駆け出した。


『う…ウギャアァッ!』












その頃、食料捜索を一時中断し、唯を探す七人隊はというと。


「ったく、あいつら二人がついていながら…」


何やってんだ、と項垂れる煉骨。睡骨はその隣で慰めるように彼の肩を叩いた。
そんな彼らの前を早足で歩いていくのは蛮骨と蛇骨。


「蛇骨、おめぇのせいだぞ!」

「まだ言ってんのかよ」


未だに彼らの間にはピリピリとした空気が流れている。大きな溜息の後、蛇骨は口を開いた。


「いっそのこと唯に紐でもつないとこうぜ?」

「紐…?」


思わず紐でつながれた唯を想像する蛮骨。確かにそうしておけば迷子にはならない。そうなるとここは首領の自分が紐を引っ張って、旅路を……!
そこまで考えた時、急に我に返り、ブンブンと頭を振る。


「……ダメだ、普通に犬散歩させてる光景しか浮かんでこねぇ」


つい、唯を犬に置き換えて想像してしまった。泣く子も黙る七人隊、その首領が犬を連れて奈落を追う。なんと微笑ましい……光景だろうか!!一方で隣の蛇骨はドSな笑みを浮かべている。

「……蛇骨、お前一瞬犬夜叉のこと考えたろ」

「えっ、何で分かったんだ!?」

「顔」

「うえっ!?」


自分の顔に手を当てては表情を確認する蛇骨。その姿を見ていると何だか馬鹿らしくなってくる。蛮骨は溜息をつくと、捜索を続けようと歩を進めた。その時――。


「……ん?」

何かの気配を感じ取り、足が止まる。


「どうしたんだ?大兄貴」

「あいつら……」

蛮骨が視線を向ける先には男が二人。




「どこまで行っちまったんだろーな、鋼牙の奴」

「なぁ、食料調達してくるって言ったっきりだぜ」


鎧を身につけ、毛皮の腰巻をした男たちが溜息をつきながらこちらに向かってきている。尖った耳や牙、爪といった特徴から恐らく妖怪だろう。



「…あぁ!鋼牙の野郎と同じ恰好だ!」


彼らの身なりを見て、蛇骨は思い出したように声を上げた。


「「!?」」

「あ゙ぁ?鋼牙ァ?」





「ぎ…銀太……こいつらってまさか七人隊じゃ…」

「なっ…何言ってんだよ白角!あいつら白霊山で死んだはずだろ!?」


蛮骨達に気づいた妖怪、銀太と白角は冷や汗を流し、小声で会話をする。



「こいつら…確か鋼牙の連れじゃねぇか?」

「やっぱり!…なぁ、鋼牙はいねぇのかァ?久しぶりに会いてぇなー」


蛇骨は目を輝かせ、二人に詰め寄った。彼らは恐怖で顔を引き攣らせている。妖怪が人間を恐れる、何とも滑稽な光景である。一方、蛮骨はイライラした表情で蛇骨の着物の襟を掴んだ。


「おい、蛇骨!俺たちが捜してんのは鋼牙じゃねぇ、唯だ!さっさと行くぞ!」

「チェッ…分ぁったよ!」


頬を膨らませながらも蛮骨の後をついていく。それを見て妖怪たちは安堵の息をついた。
だが、その時。


「「……ん?(ピクッ)」」


何か気配を感じ取ったようで、二人同時に顔を上げる。


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