log (〜2012) | ナノ


「それでその後は?」
『先輩に駅まで送ってもらって帰った』
「え、それだけ?」
『それだけ』

伏し目がちに言葉を返せば、かごめは心底つまらなそうに息を漏らした。
どうやら昨日、買い物をして蛮骨先輩のお家に向かうところを偶然かごめに見られていたらしい。そのせいで朝からこの質問攻め。どっと疲れてしまった。これから、ただでさえ心労募る授業が始まるというのに。取り敢えず、一時限目の国語は睡眠時間で決定だろう。ごめんね、担当の奈落先生。



噂のあいつ
  episode5



「で、結局のところどうなのよ。先輩のこと、好きになっちゃったの?」
『ブッ…!』

よりによって飲み物を口に含んだその瞬間に核心に迫る質問をぶつけてくるので、思わず激しく咳き込んでしまう。そんな私を見て、かごめは目を輝かせた。

「やっぱりそうなんだ!」
『まさか!あり得ないよ!』
「でも話聞いてる限り、あなた達もう恋人同士としか思えないんだけど。それに先輩、絶対あなたに気があるわよ!」
『はぁ!?』

本当にこの子は、どれだけ私の心拍数を上昇させれば気が済むのだろう。その言葉に私は顔を真っ赤にさせてしまう。更に隣の席の犬夜叉まで「おめー、鈍感だもんな」と鼻を鳴らして言うものだから、顔に集中した熱は中々下がらない。

本当はかごめに気持ちを問われた時、あんなにはっきり否定するつもりじゃなかったのに。私だってちゃんと自分の気持ちに気付いてるのだ。廊下を歩いていると、偶然先輩と出くわしはしないかとそわそわしてしまう。売店に行くと、人集りの中に先輩が混じっているかもって少し期待してしまう。
いつの間にかこんなにも先輩に惹かれてた。
なのに、どうして素直になれないのだろう。

「先生遅いわねぇ。もうとっくに朝礼の時間なのに…」
「そう言えばさっき鋼牙が職員室まで様子見に行ってたな。もうじき戻ってくんだろ」

二人の声を聞いて私は顔を上げた。確かに黒板上の時計は8時50分を指し示している。普段ならとっくに担任の先生が来て、朝礼を始めている頃だ。何かあったのだろうか。そうは思いつつも周囲の騒動に同調することもせず、頬杖をついて欠伸をしていた。
まさにその時だ、ガラリと音をたてて前方の扉が勢いよく開く。その扉から入って来たのは先生ではなく、鋼牙くん。ゼイゼイと息を荒げながら膝に手をつく、その必死な姿に皆は何事かと騒ぎ始める。これには流石に私も平穏のままではいられなかった。それに何故だかは分からないけれど、この時ふと思ったんだ。鋼牙くんが口にするであろうその言葉は私にとって良い知らせにはならないと。
そして、その悪い予感は現実へと形を変えて私の胸を深く抉る。

「二年の蛮骨、謹慎決定だってよ!」
「マジかよ!?」
「ああ、昨日他校の生徒と喧嘩したらしい。今までも結構問題起こしてたからな。もしかしたらこのまま退学ってことも…」
「ちょっと鋼牙くん!そんな滅多なこと言うもんじゃないわよ!」

怒気を含んだかごめの声が後ろから聞こえる。きっと私を気遣ってのことだろう。何だか申し訳ない。だけど、今の私に強がりを見せる余裕など残っていなかった。

「えっ?ちょっと、どうしたの?」

椅子を引いて静かにその場に立ち上がる私。かごめを筆頭に徐々に集まる皆の視線。そして、どよめき始める教室内。それらを諸共せず、私は駆け出した。目的地は、一つしかない。




だけど、必死に走って向かったその先に先輩の姿はなかった。謹慎中ならきっと自宅にいるのだろう。そう思って昨日の記憶を手繰り寄せ、何とか家にたどり着いたものの、肝心の本人は留守らしい。

『はぁ…はぁっ…』

一体どこにいるというのか。呼吸を落ち着かせようと寄り掛かったドアに背を預け、そのままへたり込む。
もし、もしも。このまま先輩が居なくなってしまったら…、嫌だ。そう思ったら自然と自分の気持ちが口に出る。

『…会いたいよ』



「何やってんだよ、おめぇは…」
『…っ!』

俯く私のもとに突如届いたその声は他でもない蛮骨先輩のもの。顔を上げた先には何故か息を荒げて私を見つめる先輩がいた。

聞きたいことは沢山ある。
伝えたいことも沢山ある。
だけど先輩の顔を見た途端、口を開くより先に涙が溢れ出した。もはや条件反射。嗚咽すら出ず、ただ静かに涙だけが頬を濡らしていく。
目に溜まった涙のせいで先輩の姿が霞む。先輩は今どんな顔をしているのだろう。もしかしたら呆れられているかもしれない。そう思うと堪らなく怖くなり、涙を拭えずにいた。

だけど、それは突然のこと。
全身に圧迫感を覚える。それに温かい。
先輩に抱きしめられた、そのことに気付けたのは耳元で囁くような先輩の声を聞き取ったからだった。

「心配すんな。俺は、ここにいる」


噂のあいつはどこだ
やっと、素直になれた

(先輩はバカです)
(ああ)
(どれだけ心配したと思ってるんですか)
(すまなかったよ、本当に)
(…でも、会えて良かった)


To Be Continued...


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