その頃、戦国時代。
夜も更け、辺りはシンと静まりかえっている。まぁ蛇骨のいびきを除けば完全静かだ。
「……」
寝れない…。
布団に入って結構な時間が経つのだが全くと言っていいほど眠気が襲ってこない。
「ちょっと散歩でもするか」
とにかく気を紛らわそう。そう思い、髪も束ねずに外へと繰り出した。
それで、どうして自分はこの場所に来てしまうのだろう…。
住み処を一周だけして戻るつもりでいたのに、気づけば名前の国へと通じている井戸の前。
「あ゙ー、畜生!」
名前に会えない、ただそれだけでこんなにも病む自分を情けなく思う。
だけどもう我慢の限界だった。
蛮骨は意を決して井戸に飛び込んだ。
「よっと…」
いつもと違い浴衣姿で髪も結っていないため、井戸をはい上がるという行動すらうまくいかない。
やっとのことで井戸から出ると目に入ったのは一軒の家。
名前が暮らしている家だ。
名前の国へとやって来た。
家の中の明かりはほとんど消えているが、視線を高い位置に向けると一カ所だけ、2階のある部屋から明かりが漏れている。
「あそこか…」
蛮骨はその明かりを頼りに家に向かって行った。
「はぁ…はぁ…」
さて、俺は今どこにいるでしょう?
正解は瓦の上…。玄関から入ろうとしたが鍵がかかっているのであろう、開かなかった。蹴破ってやろうかとも思ったがさすがにそれは直感的にやばい気がした。だからこうやって瓦をよじ登っているわけで…。
時々顔に垂れてくる髪をうっとうしく思いながらも必死に登った。
今自分の後ろ姿がどのように見えているのだろう…。
(俺、変態に見えてねぇよな)
今更そんなことを思ったが、ここまで来てしまったのだ。もう後には退けない。
「あー、クソッ変態上等だ!」
そしてやっと明りがついている部屋までたどりついた。遠慮がちに顔を覗かせるとそこにいたのはベットの上に仰向けになり寝息をたてる名前だった。
「ったく、可愛い顔して寝てやがる」
純粋な名前の寝顔に緩む口元。こうして側にいるとやっぱりなんだか落ち着く。
「俺、どうしようもなくお前に依存してるな」
寝息をたてる名前の頭をそっと撫でてやる。
すると、
『蛮…』
「…!!」
突然声が聞こえ、ビクッと体が跳ねあがった。
顔を見ると何事もないように再び寝息をたてる。
「なんだよ、寝言かよ…」
『蛮骨…』
再び名前が寝言で蛮骨の名を呼ぶ。
「名前…?」
俺の夢見てんのか…。
そう思うと寝言なのにすごくドキドキする。
『会いたい…』
名前の口からポツリとその言葉が洩れた。
「え…」
やべぇ、なんて可愛いこと言うんだこいつ…。
落ち着け、俺!
でも、もはや誘ってるとしか思えねぇ…。
蛮骨は名前の顔をチラッと見た。
ちょっとならいいよな。
一週間名前抜き生活に我慢した自分にご褒美として…。
名前の唇をなぞってみると小さな声が漏れる。
もうお前抜きでは耐えられねぇ。そう思うくらい俺はお前に夢中…。
顔を近づけ小さな寝息をたてるキミにそっと優しいキスをした。
君に夢中どうしようもなく
君が好き。fin
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