ある日のことだった。
家の中から男の大声と皿が割れる音が聞こえてくる。
「おっ、落ち着けェ!大兄…ブッ!」
「やめてください、大兄貴!家が崩れま…ゴフッ!」
暴れる蛮骨を慌てて止めに入った蛇骨と煉骨。
しかし言葉を言い終わる前に殴られ、蹴られ完全ノックアウト。
そもそも何故こんなことになってしまったのだろう。時は一週間前に遡る。
『じゃあ行ってくるね!』
大きなリュックサックを背中にかるって七人隊の住み処から出る準備をする名前。
「え、何お前帰んのか?」
『うん!一、二週間ほどあっちにいるから』
「そんなに!?」
冷や汗を流す蛮骨に横から煉骨が声をかけた。
「てすと、とかいう妖怪を退治に行くみたいですよ」
「妖怪!?一人で大丈夫なのか!?何なら俺も一緒に…」
『いいよ、雑魚妖怪だから。じゃあまたね!…あ、くれぐれも邪魔しに来ないでよ!』
そう言葉を残し、名前は自分の国へと帰ってしまった。
それからだ。蛮骨の名前抜き生活が始まった。
一日目、まだ余裕。
二日目、しかめっつら。
三日目、貧乏揺すり。
四日目、八つ当たり(主に煉骨に対して)
五日目、暴言(主に煉骨に対して)
六日目、暴力(主に煉骨に対して)
そして今日、七日目…。
「あ゙ー、ムカつくー!」
物破壊。
以上煉骨の日記でした。
「何だか朝顔の成長記録つけてる気分だ」
「そんな悠長なこと言ってる場合じゃねぇっつーの!
どうすんだよ、名前あと一週間は帰ってこないんだろ?」
「う゛…」
「いっそのこと名前のもとに送っちまうか?」
「いや、そしたら名前に何て言われるか…」
「ん〜、でもまぁ今俺達に出来るのは…」
「あぁ…」
「「逃げる!!」」」
こういう時は本人の頭が冷えるのを待つのが一番。
蛇骨と煉骨は暴れる蛮骨をその場に残し、一時避難した。
―――
――
―
辺りが暗くなり、大きな月が顔を覗かせている。
物が壊れる音がしなくなった。やっと蛮骨が落ち着いたようだ。
「大兄貴ー?」
蛇骨が恐る恐る様子を見に行くと蛮骨は縁側に座って空を見上げていた。
「蛇骨か。悪かったな、さっきは…」
「いいよ、名前に会えなくてつらいんだろ?」
「笑っちまうよな、たった一週間だけでこれだぜ?」
「そんだけ大兄貴が名前のこと好きだってことだよ」
「……」
蛮骨は月を眺めた。
名前、今頃何してんだろな。
一方現代。
『うー…』
名前は持っていたペンをポイッと投げ出した。
こっちに帰ってきて一日ぐらいはちゃんと集中できてたのに、それ以降はどうも集中力が続かない。
『そういえばこっちに帰ってもう一週間か…』
思えば今までこんな長い間離れたことはなかった。
会いに来てくれないのかな…なんて思ったりしたが、
『くれぐれも邪魔しに来ないでよ!』一週間前、自分が彼に向けて言ったその言葉を思い出し、うなだれる。
そりゃあ来るわけない。
名前は開いている窓から月を眺めた。
蛮骨…、今頃何してるのかな。
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