狭まる視野、深まる愛 




ふと気付けば、遠くの看板の文字がぼやけるようになった。少しすると、黒板の文字がぼやけるようになった。そして、テレビの映像もぼやけるようになった。

『眼鏡、似合わないんだよね…』

右肩下がりな勢いで落ちた視力。暗い部屋で携帯を弄っていたのが悪かったのかな。でもこの目に映るぼやけて曖昧な世界にも慣れてきた。…かなり不便だけど。まあ、幸いなことに目の間の彼の顔はハッキリ見えるわけで。

「いいじゃん、眼鏡。」

『幸村は似合うからいいの。』

「夢も似合うよ。」

『無理。授業中だけで精一杯だから。』

溜め息混じりに言いながら幸村から視線を外して空を見上げる。ぼやけてよく分からないが、あれは飛行機だろうか。

『目悪いのってホントつらい。』

「駅の電光掲示板が見えないから?」

『…それもあるけど、』

「けど?」

『なんだか世界がどんどん狭まっていく気がするんだよね。人って視覚からの情報が殆どって言うでしょ?だから自分の視界内で行動する。目が良かったらもっと遠くへ行けるし、色んな世界も見れる。でも、あたしの視界はもう猫の額くらいしか無い。…世界がなくなっちゃいそうで怖い。』

大袈裟と思われるかもしれないけど、この恐怖は計り知れない。目が良かった頃はまさか自分がこんな思いするなんて予想も出来なかったし、しなかった。コンタクトは選択肢から外れた。怖くて自分で入れられなかったから。

「でも俺のことは見えてるでしょ?」

『これだけ目の間に居ればね。』

「じゃあ俺が夢の目の代わりになってあげる。」

『…はい?』

「夢は俺だけ見失わなければいいよ。」

俺が広い世界に連れてってあげる、そう言った幸村は満足気に微笑んでいた。



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「あ、はぐれないように手も繋いでおかなきゃね。」

『一応視力はあるからね。』

「念の為だよ、念の為。」

『…勝手にして下さい。』

「うん、勝手にするよ。」






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