白と黒の約束
『必ず戻って来るから。』
あいつは"黒夜叉"と呼ばれていた。
綺麗な黒髪をたなびかせ、次々と敵を斬っていた。
強くて美しくて、そして優しかった。
『必ず貴方の元に戻って来るからね、銀時。』
* * *
「あれから5年だな。」
「あ?」
「夢殿が消えて5年が経つだろう。」
「ああ...」
古びた屋台、親父はヅラの連れのエリザベスとか言うオッサン。
そこで俺はヅラと酒を交わしていた。
「各地を回っているが、夢殿を見た試しは無い。銀時、お前の元に連絡等は無いのか?」
「いや...無い。」
攘夷派として名を馳せた、高杉、ヅラ、坂本、俺、そして夢。
白夜叉と呼ばれ、恐れられていた俺とは正反対に、黒夜叉と呼ばれた夢は多くの者に愛されていた。
俺達は恋人同士だった。
「あまり望ましくない噂も聞くが...」
「あいつは生きてるぜ。そんな簡単に死ぬかよ。」
「俺もそう思うが、だが、」
"覚悟はしておいた方が良いぞ。"
冷たい酒とヅラの言葉が身に染みた。
* * *
万事屋への帰り道、ヅラの言葉がぐるぐると頭を巡っていた。
"覚悟しておいた方が良いぞ。"
「あいつは生きてる。」
戦いの最中、俺が背中を預けられたのは夢だけだった。
「あいつが死ぬ筈ねーだろ。」
白と黒、正反対な俺達だが、愛し合っていた。
「約束したじゃねーか...」
5年前、突然戦場から消えたお前を追うことも出来ないまま、歳月が過ぎていった。
「必ず俺の元に戻って来るって言い残してったじゃねーかっ...」
涙が出てきた。情けねーな。
俺は男を待ち続ける乙女ですかコノヤロー。
『泣いてるの?』
「い、いや別に泣いてませんけど?」
『目から雫が...』
「...新手の塩分摂取法ですう。」
やべえ。
通りすがりの人に泣き姿見られた。
てか新手の塩分摂取法って何だよ自分コノヤロー。
それにしても聞いたことあるような声な気がするんですが...
「それじゃ俺、急いでるんで…」
『約束、覚えててくれてたんだね。』
「は...」
街頭1つない夜道。
タイミングを見計らったように月が顔を出した。
『"必ず貴方の元に戻って来るからね。"』
「お前っ!」
『ただいま、銀時。』
月光を受けた黒髪がキラキラと輝いていた。
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5年前と変わらない夢がそこに居た。
白と黒は正反対。
だから俺達は出会えたのかもしれない。
だから俺達は再び巡り会えたのかもしれない。
切っても切り離せない白と黒の約束は絶対だから、な。