プリン食われた(ベポ)





「ベェェェェエポオォォォオ!!!!!」

ハートの海賊団、潜水艦の中で地獄からやってきた鬼のごとくの叫びが響き渡った。

あるクルーは肩をビクつかせ、またあるクルーはバケツにためていた水をこぼし、寝ていたクルーもぎゃあと悲鳴を上げて起き上がり、ある船長は注射容器を落とし割ってしまった。

平和だった潜水艦内が一気に慌ただしくなる。声を聞いた誰もがその方向へと足を運ぶとまた先程よりも大きい叫び。

「ベェェェェエポオォォォオオォォォォ!!!!!!!!!!」

空気が振動して食器棚がカタカタと鳴り、パイプ菅がヴィィィンと震える。
厨房の巨大冷蔵庫の前にたっていた最年少クルー、つかさが真っ赤な顔を見せて開けっ放しの冷蔵庫内を睨んでいた。

触らぬ神に祟りなし。

誰もがつかさの気迫に声をかけることなどできずに冷や汗をかいて様子を見ていた。はやく船長が来てくれればなんとかなるものを。

「(シャチ、なにがどうしてつかさは怒ってるんだ?)」
「(し、しらねーよ。気になるなら聞いてこいよペンギン)」
「(俺はまだ死にたくない)」
「(おれだって死にたくな、)ぎゃあ!」
「うわああ!!」

ヒソヒソと話していたシャチとペンギンに影が覆い嫌な予感で汗をだらだらとこぼしながら見れば、いつもは可愛らしいはずの八重歯が獣の牙にみえるつかさがたっていた。


「シャチ、ペンギン、ベポはどこにいるの?」

知らないなんて言えない。言えばやられる…!
それほどまでのつかさの表情に口を開けずに代りに冷や汗しか流せない二人。いつの間にか後ろで同じようにのぞいていた仲間がいなかった。


「……ベポは?」

「そ、それはっ」
「ベポは、ベポは」

「ベポならここにいる」


船長!三人の声が重なった先、ベポの生首を持ったトラファルガー・ロー船長が不機嫌な表情をしていた。

動くことすらできないベポが船長の手のひらで真っ青に汗をたらし涙目になって必死につかさを視界にいれないようにキョロキョロと忙しく視線を動かしていた。

ベポ、と船長の諫める声にびくりとつかさをやっと見た。

「ベポ、あれほど、あんなに、耳タコができるくらいに、しつこく!やかましく!!ノイローゼになるぐらい!!!言ったのに!オレの…オレの、プリン食いやがったな!!!!!!?」
「ひええええ…、おいしそうだったからつい…。ごめんなさいっっ!!」
「謝ってすめば海軍なんて必要ないんだよ!!!!どうしてくれるんだよっ!前の島でしか売ってなくて、期間限定品で、手に入りにくいって評判の所で買ったやつなのに!!」
「みみ!みみ!ちぎれちゃうよお!!」
「脳に人の言葉を伝達しない耳なんてちぎれちゃえ!ちぎれろ!裂けろ!!」
「キャプテンンンンンッ!!!!」

両耳をひっぱるつかさ。助けを求めてきたベポ。船長は目の前のやかましさに深いため息をはいて、ベポを持っていた手を離した。耳をひっぱられていたベポはそのまま宙ぶらりんに。

「自業自得だベポ。オレは今、忙しいんだ」

じゃあなと部屋に戻っていく。
一番に信用できる彼が消えてしまい次にはシャチとペンギンに潤んだ瞳をむけた、が。

「シャ、シャチ…ペンギン…」

「悪い、おれこれから部屋の掃除するんだ!」
「俺も、か、海図かかないとな」


「えぇーっ!?」


何かと理由を付けてそそくさとさっていく。ベポは助けてくれそうな仲間すべてを失い、目の前の怒鬼の怒りが早く治まってと祈るばかりだけれども。

「……つかさ、…あのね?」
「黙れ」
「すいません…」

食わなきゃ良かったな、なんて後悔しても遅い。怒りの頂点にたどり着いたつかさの目がぎらついた。

「…死ぬ前に何か言うことは?」

マジで殺される。
動転したベポの咄嗟に紡いだ最後の言葉は、




『ご馳走様でした!!』
船内にベポの叫びがコダマした。

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