いち
「かえせってば!」
嫌なもんか。
バッグに詰めこんだモンスターボールの感触を手で感じながら走る。
背後から追いかけてくるのは赤い髪でジム戦のハジマリでもあるサンヨウシティジムリーダーの一人、ポッドだ。足元に同じように炎が揺らぐような髪形をしたバオップがとろんとした目でポッド同様に追いかけてくる。
「くっそー!バオップ、火炎放射!」
向こうもなかなかに頭に血が上っているらしく、ポケモンを出していない自分に向かって中々の強さを誇る技を繰り出してきた。背後から熱気と共に炎が近づいてくる。
ああ、万事休すか―――――・・・だなんて。
「コアルヒー、暴風!」
ボールからだしたコアルヒーは即座にその水色の翼で風を巻き起こす。炎が暴風により巻き上げられ、バオップを巻き込みポッドへと向かう。
「う、わあああ?!」
悲鳴をあげながらも瞬時に横へと避けるポッドだが、手持ちのバオップは地面に衝突。混乱を起こしたらしく足取りをフラフラさせている。そこへ最後の技を指令する。
「残念だったね!ねっとう!」
口から吐き出される高温の水がバオップへと衝突。飛ばされ地面を一回はねた後、動かなくなった。それを避けた際に茂みへと突っ込んでしまったポッドが悔しそうに歯を食いしばりながらバオップへと駆け寄った。
「バオップ!!――てめぇ!」
「弱いのが悪いんでしょう?ジムリーダーのくせにポケモンを取られるだなんて・・・笑える」
皮肉をこめて去り言葉を吐き、コアルヒーと共に横の茂みに入り逃げる。バッグの中でモンスターボールがカタカタと震えているのが分ったが、知らぬフリをして人が来ない所まで走り続けた。
****
「―――ここまでくれば平気かな」
呟きを拾ったコアルヒーが律儀に返事を返してくれる。それにどこか安心しながらも一つの木の根元へと座り込んだ。バッグから取り出すのは二つのボール。
ジムリーダーから奪ってやったポケモンだ。
サンヨウシティはジムリーダーが三人いて、彼らは三つ子であり、炎・水・草とタイプがわかれている。つかさを追いかけてきたのは炎の使い手、ポッド。水の使い手、コーンからはヒヤップを、草の使い手デントからはヤナップをそれぞれ奪いここまで逃げてきた。
―――本当は三匹とも奪いたかったんだけども。
さすがに姑息な罠をしかけ隙をうかがっても二匹までしか奪えなかった。それでもジムリーダー相手ならば上出来だろう。
あとはこのポケモン達を逃がすなり、上司達にでも渡せば良い。
二つのモンスターボールを手に取った。
「―――あんた達は、これから自由になるんだ。ならなきゃいけないんだ。じゃなきゃいつか人間に酷いことされるんだから。それは嫌でしょ。だから自由になるの」
中から見える二匹のポケモンはそれぞれ困惑していた。だが、つかさを否定するように首を横に振った。拒絶されたようで、少し、哀しくなった。
いい。拒絶されるのはなれてる。
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