トリプルラインEX
小野田はずっと夢に描いていた事が実現していて、顔には出さないまでも、内心凄く喜んでいた。
その『夢』と言うのは友達と一緒にゲームをする、と言う事だった。
中学時代はオタクの友達が出来ず、結局面白いアニメやゲームを見つけても読むのもゲームをするのも一人。楽しさの共有を出来ないのは、アニメやゲームがいくら面白くてもどこか物足りなかった。
それが高校に入ってロードに乗るようになってから友達も出来た。
たまたま学校で、今CMで流れているゲームの話題になって、小野田の家でやる事になったのだ。
小野田はその時程、そのゲームを買っといて良かったと思っ事はなかった。
「勝った」
一際背が高く、鋭い目付きの今泉が言う。
目線の先のテレビ画面にはトップでゴールラインを切る車が写っていた。
「チッ、二位や」
一際赤い頭が目立つ、関西弁の鳴子が次に口を開いた。
先頭を切った青い車の後に続いて、赤い車体がゴールする。
「あー、負けちゃった。やっぱりハンデあるとキツいね」
一際幼い顔立ちで、このゲームと部屋の主である小野田が苦笑する。
最下位でゴールする黄色い車体は小野田が操る車だ。
三人でやろうとなったのはカーレースのゲームだった。
正直な所、小野田はラブ☆ヒメの痛車…もとい、車体がラブひめにデコレーションされた車を見たいプラス操作したいがためだけに買ったものだった。
それでもやってみるとカスタマイズの仕様でいくらでも速くなったり、コーナリングの取り方など、やってみると面白くて、すっかりハマっていた。
だから、これをやろうとなった時、小野田は天にも昇る気持ちでいた。
でもやり込んでて自信があるからってハンデなんてつけなきゃ良かった。
小野田は数分前ハンデを了承した自分に後悔していた。あれだけ面白いと豪語していた自分が最下位なんて、恥ずかしい。
「小野田くん、坂あったのになぁ」
「いや…ロードレースじゃないから」
ちゃちゃを入れてくる鳴子に思わず突っ込む。
でも確かにロードレースならあの坂で…と小野田は思わず考えていた。
そこで本気で考えてしまうのは、ロードに乗る者の悲しい性なのかもしれない。
次に今泉が口を開く。
「じゃあ、小野田バツゲームだな」
「えと、本当にするの?」
「当たり前やん。それがあるからおもろいねんで」
最下位はバツゲームをしようと、ゲームをやる前に三人で話した事を小野田は思い出す。
小野田はまさか自分が負けるなんてこれっぽっちも思っていなかったから、話半分で聞いていたのだった。
何をするのかは決めなかったが、罰と付くぐらいなのだから楽しい事ではないはずで。
小野田が焦って今泉と鳴子を見るが、今泉は当たり前と言った雰囲気で詰め寄ってくるし、鳴子は更に後押しをする様な事しか言わない。
「勝ったのは俺だから、まずは俺からだな」
「ちぇー、スカシずるしたんちゃう?」
「潔く負けを認めろよ」
まさか本当にバツゲームをするなんて…なんだろう、一体何を…お金を出せとか?あ!それよりラブひめの限定フィギュアをよこせ!とか言われたら…
すっかりカツアゲと勘違いしている小野田を尻目に、今泉と鳴子はどっちが先にするのかと言う話をしていた。
トップでゴールした事を主張する今泉に鳴子はブツブツと文句を垂れる。
この場合の『どちらが先にする』と言うのは決してカツアゲの事ではなく。
今泉が小野田に近付く。
「わっ…!今泉く…んっ、ごめなさい、フィギュアは…」
ただ一人、勘違いをしている小野田はフィギュアはあげられませんと言おうとしていた。
今泉は一人慌てている小野田の顎を持ち上げて、その唇に口付けた。
「んん…!?」
え?と思っている内に、小野田の口内にするりと舌が入ってくる。
それは今泉のものしかあり得ない。
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