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いつもの如く何度かかけて切っての後に電話の相手は出た。
聞きたかったその声に思わず歓喜の声と願望が東堂の口から漏れる。
「巻ちゃんに会いたい〜」
『…俺は会いたくないっショ』
「またまたぁ〜、照れなくていいぞ!」
『いや…だから…』
違う、と訂正しようとする巻島を遮って東堂が話を続ける。
ただ巻島と電話をしているだけなのに、東堂のテンションは高い。
「練習が詰まっててな、しばらくそちらに行けそうにないのだよ」
『いいっショ。来なくて』
巻島と話せて嬉しいが、会えない事の方が辛いらしい。東堂が大きなため息をつく。
巻島のズバッととした物言いなど届いていないようだ。
冬の寒さに身を縮ませて、東堂は巻島に会えたらと想像、もとい妄想する。
頻繁に会えないから、会える時は必ず会いたいし、会えなくなった時の落胆は凄まじい。
それに今の季節も相まってか、温もりを感じられないこの距離は寒さが余計に身に染みる。
「あ〜、巻ちゃんに抱きついて暖をとりたいなぁ」
『なんで俺で暖をとるんだよ』
「巻ちゃんも俺に会いたいと言うのに本当に……」
そこまで言って突然通話が切れた。
「むぅ…巻ちゃん、充電切れか?」
呆れた巻島に一方的に切られているだけなのだが、東堂は気が付かない。
恋は盲目状態だからなのか、ただ抜けているだけなのか。
それは本人にしか分からない。
◇
翌日。練習が終わり部室で着替えようとしていると、荒北が勢いよく部室に入ってきた。
「おい、客!つかアレ総北の奴だろ。お前、どう言うー…」
荒北が親指で外を指して東堂を呼ぶ。その言葉の中には自分たちの敵である総北のメンバーと無駄に親しくするなと言いたい様にとれるが、全てを言いきる前に東堂は外に飛び出していた。
総北で東堂に会いに来るとしたら一人しか考えられない。
嘘じゃないといい、そう言う思いと交差する、戸惑い。
どうして、なんで。
「巻ちゃん!」
冬の日が落ちるのは早い。
辺りはもう薄暗くなっているけれど、その細長いシルエットと長く延びる髪で分かる。
東堂は予想外の状況に声を詰まらせながらも、巻島に近寄った。
「っ、まさか巻ちゃんから来てくれるなんて…!」
「あー…なんだ、あれっショ。寒いから暖をとりにきたっショ」
ガリガリと頭をかく仕草をして何処と無く言いにくそうに言う。
間近に近付くと相変わらずな服のセンス、薄暗くても充分目立つカラフルなマフラーが目について、思わず東堂は吹き出す。
たまに自分だけが巻島に対して、過剰な想いをもっているだけなんじゃないかと東堂は思っていた。
でも今はそうは思わない。
「巻ちゃん大好きだ!」
その言葉と同時に東堂は巻島に抱き付く。
普段電話越しでは感じる事の出来ない温もりが伝わる。
「まあまあ、温かいな」
「だろ?」
巻島がいつもの少し困った表情で笑うと、東堂はさも当然とばかりに自慢気に返した。
離れている時の方が長いから、だから些細な温もりでもこんなに暖かく感じるのかもしれない。
〈終〉
→おまけは新荒
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