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 その日 まいちゃんが おひるねから目をさますと いえのだいどころに サンタさんがいました。
 白いかみと白いひげ ちょこんとのった金のめがね。
 赤いぼうしとふくは いかにも といったかんじです。
 ぷっくり出たおなかは いまにもはちきれそうです。
「そこで なにをしているの?」
 まいちゃんは サンタさんにききますが サンタさんはこたえません。
 れいぞうこをあけて 中にあったのみものを手にしたり お母さんがつくった かぼちゃのにものを つまんだりしています。
「ねえ、きいているの?」
 まいちゃんが もういちどきいていると、
「あ、まいちゃん。おこしちゃった?」
 サンタさんのとなりにいたおねえさんが、まいちゃんに気づきます。
 いとこのおねえさんは こうこうせい。
 まいちゃんのお母さんが しごとでいそがしい日や お休みの日になると、このうちにあそびにきてくれます。
「おなかすいた? いま ドーナッツあげているからね」
 おねえさんは やさしいこえで いいました。
 コンロからは ぱちぱちと ドーナッツをあげる音が きこえてきました。
 おねえさんのはなうたにのって まあるいドーナッツが ひとつふたつ おさらにころがっていきます。
 すると サンタさんは できあがったドーナッツを ぱくりとたべてしまいました。
 ひとつへってしまったドーナッツ。
 目のまえでつまみぐいされたのに、おねえさんは それに気づいていません。
 どうやら おねえさんには サンタさんが見えていないようです。
 じぶんのおやつをたべられたので まいちゃんは いいました。
「おねえちゃん」
「なあに」
「あのね……あのね」
 まいちゃんは おねえさんのとなりに人がいることを はなそうとしました。
 でも まいちゃんの口は それをいうまえに 大きな手でふさがれてしまいます。
 いつのまにいたのでしょう。
 ふりかえると サンタさんの口もとに 人さしゆびが 立っていました。
 それはまるで「しゃべっちゃいけないよ」といっているようでした。
 まいちゃんは口をとざします。
「……なんでもない」
「そう?」
 おねえさんは にこりと ほほえみました。
「コンロのそばはあぶないから、あっちのおへやで まっていてね」
 しかたがないので、まいちゃんは ソファーのうえで ドーナッツができあがるのを まつことにしました。
 ときどき だいどころにいるサンタさんをみては 「うーん」と うなります。
 しばらくして いえのでんわが なりました。
 おねえさんが コンロの火をとめて でんわをとります。
 エプロンで手をふきながら おねえさんは あいてのおはなしを きいています。
 すると おねえさんの口から おどろきのこえが でました。
 おねえさんは でんわをきると、まいちゃんにいいました。
「まいちゃん。おねえさんね、これから びょういんに いかなきゃならないの」
「どうして? どこかわるいの?」
「ちがうよ」
 いとこのおねえさんは にっこりとわらいました。
「まいちゃんは わたしのお母さんのおなかの中に 赤ちゃんがいるの、しってるよね?」
「うん」
「その子が さっきうまれたんだって。どうする? まいちゃんも 赤ちゃんを見にいく?」
 おねえさんのさそいに、まいちゃんは ちょっとだけなやみます。
 まいちゃんは うまれたばかりの 赤ちゃんを見てみたいとおもいました。
 でも……
 まいちゃんは サンタさんを見てから、くびをよこにふりました。
「まい、ここにいる。おねえさん いってきていいよ」
「そう……じゃあ 赤ちゃん見たら、おねえさん、すぐにかえってくるから。それまで ひとりで おるすばん、できる?」
「はい」
 まいちゃんは 大きなこえで へんじをしました。
 まいちゃんは あしたで 五さいになります。
 らいねんは ようちえんの 年ちょうさん。ひとりでおるすばんも できます。
 ひとつ大きくなるのだから しごとでいそがしい お母さんや おねえさんを こまらせてはいけません。
「ごめんね すぐにかえってくるからね」
 おねえさんは したくをすると、びょういんに出かけました。
 まいちゃんは いえのドアに かぎをかけます。
 くるりとふりかえると、うしろにいたサンタさんに いいました。
「もう おはなししても いいの?」



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