ONE PIECE [LONG] | ナノ

今夜、キミに会いにゆく

「こんばんは。今日も美味しそうな匂いに...って閉めないで!」
「ああ...最近流行りの変質者かと思ったら大将さんでしたか」
「ちょっ、確認したくせに閉めるつもりかい?おれ、まだ外、」
「むしろこんな時間に訪問する方がおかしいです」
「だってしょーがないじゃん!今、書類終わらせたんだし!」
「.........本当に終わりましたか?」
「終わったって!ベレッタのために終わらせました!」

と、敬礼すれば彼女は小さく溜め息を吐いてしぶしぶ中に招いてくれた。
自分より下の海兵に敬礼にするヤツなんざ何処捜してもいねェだろう。こんな情けない姿を誰かに見られたら大将としての威厳はほんとにゼロになっちまうだろう。でも、それでもいいから...なんて思っちまうおれは末期だろうか。

「で、何か用件でも?」
「ん?」
「いえ、仕事で何か不備でもありましたか?」
「ないよ。ただ夜這いに来ただけ」

向き合ったスッピンの彼女が一瞬、ピキッと表情を固めたかと思えばにっこりと微笑んだ。
うん、この後何が起きるかおれはきちんと学習してる。だから、彼女の行動より早く両手を上げて降伏した。

「.........何です、その手」
「降伏のサイン。何もしなかったら銃向けるでしょ?」
「正解」

今は大人しく補佐として働いてるけど元は辺境13支部の軍人だから体が動いちゃうってヤツ。前回、まさか銃を突き付けられるとか思ってなかったから本当にビックリした。って言っても...おれにはそれなりの覇気を持たないと銃は効かないんだけど。
もし、おれのとこに来る前にガープ中将のとこに行ってたら...アウトだったかもしれない。あの人、本気で教え込むから。

「やだなァ、ただ会いたくて来たのにさ」
「私たちは毎日顔を合わせてますが?」
「スッピンのベレッタには此処でしか会えない」
「.........明日からスッピンで仕事しましょうか?」
「だったら化粧したベレッタに会いに来るだけよ」

おれはどっちのベレッタも好きで会いたいから、と言えば呆れられた。それにプラスして「誰でもいいくせに」とも聞こえた。

誰でもいいか悪いか、なんてそんなの普通に考えたら誰でもいいわけじゃない。
声を掛けるのは誰でもいいかもしれない。挨拶とか注意とか...町の巡回をすることがあるからある意味、誰にでも声は掛けるさ。ベレッタに出会う前までは...誰とでも出歩けたし遊べたしキスだって出来る、抱けるとも思っちゃいたけど今は微塵もない、そんな考え。結構虚しいだけだもの、そこに感情なんかなくて意味もなくて...最終的に何もない。後悔もないんだけど後腐れはまァ、なくもなかった。

ただ、ベレッタに出会ってからは見えなくなった。恋は盲目だなんてほんと昔の人はイイ表現してる。
おれもまたソレだった。情けないくらい、盲目。

「おれ、ベレッタじゃないとダメなんだけど」
「何がですか?」
「傍に居てくれる人。仕事でもプライベートでも、常に傍に居て欲しいのはベレッタだけ」

大真面目にそう言ったけど揺れることのない瞳がちらりとこちらを見て椅子に腰掛けるよう勧めた。
一応、コートを脱いで小さな椅子に腰掛けたけど...彼女は特に言葉を発することなくキッチンの方へと向かってしまった。とは言っても見える距離で...でも何をしに行ったのかは分からない。お茶でも淹れてくれるんだろうか。

「ベレッタ」

呼んでも、返事はない。それもまた寂しい。けど、気付いた。何か、とてもイイ匂いがする。
まだ夕飯前だった?...ってことはまずない。時間が時間で食べ物を口にするには少し遅すぎるし、お腹が空くと可愛らしくも幼児化しちまう彼女を考えると有り得ない。今日は随分とシャキッとしてるし。と、考えていたら彼女がくるりと振り返った。

「.........じきに飽きますよ」

言葉と共に置かれたのは「残り物ですけど」とも口添えられたトマトパスタとカボチャスープ。残ったにしては、少し多い。

「飽きないよ。だって色んな顔持ってるじゃない」
「作り顔と素顔の二つだけです」
「その中にも色んな顔を見た。自覚ないの?おれはどれも好き」
「.........冷めますよ」

あまりはぐらかされんのは好きじゃないけど、折角残しておいてくれたものを冷ますわけにはいかない。

「有難う。頂きます」
「どうぞ」

程良く湯気の上がるスープを一口頂く。うん、美味しい。
「やっぱりベレッタをお嫁さんに欲しいなァ。料理出来るコだし」


(11/17)
[ 戻る付箋 ]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -