ONE PIECE [LC] | ナノ


まわしいけど懐かしい

「おめェら二人も居て何やってんだよい!」
「.........悪い」
「特にエース!見張りの邪魔するヤツがあるかい!!」
「ご、ごめん...」

と、俺たちが怒鳴られてる間も砲撃は決して止まったわけじゃない。砲撃の最中だってのにマルコから説教を喰らっているところ。
何かと敵襲の多い船とはいえ、見張りが全く役に立たずに砲撃を受けたのは初めてだ、まだ不慣れなヤツの方がしっかり見張って役に立つぞ、とガミガミ言われてる。そんなことしてる暇があるなら交戦準備とかさせてくれればいいんだが。

「おーいマルコ、説教はそれくらいにしとけよ。相手の船、近付いてるぞ」
「.........随分と早ェな。海軍かい?」
「いいや違うらしい。海賊って聞いてるが...おれが見て来る」

珍しく真面目なサッチがそう言って見張り台へと登っていく。多分、見張り役を代わって欲しいと頼んだのが自分だったもんだから少しは責を感じてるんだろう。へらへら笑って「ザマーミロ」とか言った日には地獄を見せるつもりだったけど...調子が狂う。
サッチの一言が効いてか一息吐いたマルコがもういいと言わんばかりの顔をして顎で「戻れ」と俺らに促した。大きく背伸びをしたエースは自分の配置に行ったが...俺は指示を出されていない。

「マルコ。俺にも指示を」
「あ?エースからはねェのかい?」
「ああ。ないから聞いてる」

長く船に乗ってる者ならば大方、自分が何をすべきかは把握しているだろうが俺はまだよく分かっていない。ゆえにエースもしくは他の隊長たちに指示をもらわないとどうしていいか戸惑う。ただ下がっておくってわけにもいかないだろうし。

「.........あのバカが。なら今行ったサッチと交代だ。そっちの方が都合がいい」

マルコが指差した先、まだ見張り台に到達してないサッチが居る。
そのサッチに声を掛けたマルコに「了解」とだけ告げて見張り台まで一気に飛ぼうかと構えたらパンッと肩を叩かれ振り返った。

「今度はヘマするんじゃねェよい」

嫌味でも何でもない、そんな声だった。

「敵旗が見えたら特徴を叫べ。どうせお前、詳しくねェんだろ?」
「懸賞金付き以外はな。知らなければ叫ぶ」
「頼んだよい」

徐々に近づく砲撃音の中、俺は頷いて見張り台へと飛んだ。

着々と仲間たちが迎撃準備をしているのが見え、俺もまた無造作に置かれた望遠鏡を片手に船を探した。
方向は弾道から当然分かっていることで後はその敵旗を見るだけ。だが、まだ明け方に程遠い時間帯にソレを確認するのは難しい。俺はとにかく目を凝らし、点火の瞬間を待った。その一瞬の光で何か分かるかもしれないから。

チカチカとまばらに見える光。音と共にやって来る衝撃。


「.........!」


神経尖らせて、目を凝らして見えたもの。


「マルコ!!」
「確認出来たのかい!」
「待ってくれ!!」

放り出した望遠鏡、見張りを任された身だったがすぐさま甲板へと飛んだ。

「何やってんだよいセト!」
「ちょっと待って欲しいんだ」
「はァ?」

マルコの眉間に深いシワが寄った。マルコが困惑してる、見たら分かる。そして、俺自身が一番混乱してることくらい自分でも分かる。だが何をどう説明していいのかも分からなくて脳内がごちゃごちゃした言葉で埋め尽くされている。ただ、

「俺が直接行って話して来る。だから...頼む、待ってくれ!」

それだけ叫ぶと俺はそれ以上何を言うわけでもなく飛んだ。大砲を交わしながらただ、飛んだ。
マルコが、他のクルーたちが何か叫んでいたが聞こえないフリをした。暴走する俺を止めようとしたとしても...俺は止まらない。

「戻れセト!!」

一瞬の光の中に、見覚えのある姿を見た。
何処のどんな船にもない、マークなんか見なくても分かる、あの船にしかない"遊蛇"。もしもアレが本物ならば...俺が、止められる。

「戻るんだ!」





蘇る、記憶。忘れられない、出来事。

「どうしても...行くか?」
「故郷に、帰らなきゃいけないんだ」
「そうか...色々事情はあろう。止めはせぬ。だがこれだけは覚えておけ」
「......?」
「我らは...おぬしの味方じゃ。いつでもおぬしの力となろう」

「また会おう」と言って別れた...友。忌まわしき...記憶を持つ仲間たち。





「......敵襲だ!男が来たぞ!!」

二匹の"遊蛇"が引く船。間違いない、この船は九蛇の船。
男の居ない島で強く逞しく気高く生きる女族。遠い遠い昔、その姿に俺は...どんなに感銘を受けたことか。

「待ってくれ!」
「待てと言われて待つ馬鹿が何処にいる!」
「頼む...話を聞いてくれ!」

接近しようとすれば彼女たちは一斉に弓を構え、容赦なく矢を射て来る。
岩をも砕く矢、必死に交わしながら俺は何度も「待ってくれ」と「話を聞いてくれ」と叫び続けた。

「俺は...争う気などないんだ!」
「黙れ男!聞く耳持たぬ!」
「俺は...九蛇に昔世話になった!だから...!」

遠い遠い、昔のこと。
見知らぬ顔ぶれの中で必死になって知る人を捜す。俺の知る人、俺を知る人を...

「黙れ!貴様の言うことなど誰が信じる!」
「嘘じゃない!俺は、本当に――...」

遠い遠い、昔のこと。
差し出された手に触れた。一瞬の幸せを噛み締めた。助けられた。


「騒々しい!さっさと仕留めぬか!」



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