小話
「よォ、相変わらずガラガラだな」
「そうですね...これもいつものことです」
「おれとしては助かるがな」
そう言うとパウリーさんはいつもの席に座る。
どんな登場の仕方でもお客様はお客様。お冷とおしぼりを彼の前へと置いた。
「まだ逃げ回ってるんですね」
「返せねェもんは返せねェしな」
金額は不透明だけど...彼には大きな借金がある。
真面目に頑張れば返らせなくも無いらしいけど...彼は借金王と同時に稀に見ぬギャンブラーでもある。返せるだけのお金を持っていたらそれを元手に賭けに走るそうだ。
でも不思議な事にウチにツケは無い。
「あの、無理してウチに来なくてもいいんですよ?」
「はァ?」
「お金、無理してませんか?」
何処かの飲み屋のマスターは言っていた。
奴を縛り上げて逆さまにして降れば小銭くらい回収出来るだろうって。
「そこ別に無理してねェよ」
「.........そうですか」
でも私は...そんな事をしなくてもツケは無い。
「隠れんのに丁度いいし、ついでに飯も食えるだろ」
「まあ...そうかもしれませんけど」
「借金取りから逃げれて美味い飯が食えたらおれはそれでいいんだよ」
「.........美味しいなら、良かった」
滅多に聞けないお褒めの言葉。
「バッ、こ、こんだけ走りゃ何でもうめェに決まってんだろ!!」
照れ隠しのように彼はおしぼりで何度も顔を拭いていた。
2012.10.06. NOTEにて
2017.02.23. リメイク小話作成
2017.02.23. リメイク小話作成
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