ONE PIECE [SHORT] | ナノ

君と出会った日

「......お前が薬師か?」

ある日、ちょっと大きな町で薬売りをしている時だった。
随分と若い男性が気配もなく私の背後に立ち、何処か困ったように私に声を掛けて来た。着ていた服の袖には何やら血液が付着していて、怪我人...じゃないにしても薬を捜しているんだと思い、尋ねられたまま頷いた。

「痛み止めを捜している。オペに使用出来るくらい強いものだ」
「あ、お医者さんですか?」
「.........船医だ。一刻を争う」

若い船医、事態は思わしくない、それだけで十分だった。

「オペに使用するならコレを。少しキツめの痛み止めと止血剤、あと...麻酔。あ、一応この気付け薬。私のオペ用麻酔はキツいんで。お金はオペを終えてからで結構です。急いで船に戻って下さい」

勝手に薬を袋に入れて若い船医に持たせれば彼の表情は少しだけ驚きに変わった。
今考えれば「何ちゃっかり色んな薬押し付けてんだよ」と言いたかったのかもしれない。「言われたものだけ出せばいいんだ」と思ったかもしれない。この船医...その時は全く知らなかったけど名のある海賊団の船長だったんだから。

「.........金は後から持って来るからコレを」
「.........紙?」
「ビブルカード。説明は後だ。薬は貰ってく」

そう言って紙切れ一つ受け取れば彼はお礼を言うことなく走り出した。



それから約半日、深夜に近い時間帯。
この町の近くに借りたホテルで就寝するだけの状態となった私の元へ彼は来た。私の宿泊先など教えてなかったのに、こんな時間帯にわざわざ来なくてもいいのに。ドアの覗き穴から彼を確認して慌てて扉を開ければ涼しい顔して一歩、頼んでもないのに踏み出して中に入って来た。

「薬、よく効いた」
「オペは...患者さんは...?」
「無事だ。助かった」
「.........良かったです」

どんな症状でどんなオペをしたのかは知らないけど「患者が救われた」それで私はただただホッとした。
私はメスを持つことはなく直接患者を助けることは出来ない。そこまでの技術を持ち合わせていないから、あくまでサポートしか出来ない身で医者任せになる。そんな中でも私の薬が役に立ったなら良かったと思う。それだけで嬉しい。

「お疲れ様でした。ドクター」
「.........直接礼を言いたいと言ってる」
「え?」
「今から...出れるか?」

安堵の最中に意味の分からない申し出があった。
今の時間は中途半端に今日と明日の境目くらいで少なくとも出歩く時間帯ではない。そりゃ急患でどうしても薬を...と、ドアを叩く人もいるけどそれとは話がまた違う。患者の命は少なくとも救われてる。安定しているということは今すぐでなくても問題がないということ。

「今...って、時間が遅いんで...明日の朝じゃダメ、ですか?」
「.........明日には船を出す。早い方が助かる」
「あ、」

そういうことか。と、私は納得した。
.........そして此処が、この選択肢が全ての始まりへと繋がっていったんだ。





「はあ...人を信じるって難しいわね」
「急にどうしたんだ?」
「そういえばベポだったわね。私の居たホテルから荷物持ち出して来たの」
「.........あァ、あの日のことかい?キャプテンの命令だから逆らえないよ」

でしょうね。あの無言の圧力を初めて目の当たりにした時は驚いたもの。
無口な若い医者じゃなくて「死の外科医」だって呼ばれてる人だったなんて本当に知らなかったんだから。

「でもあんなキャプテン命令は初めてだったなァ」
「え?何ソレ」
「えっと...言っていいのかな。実はあの日――...」

ぼそぼそとあの日のことを話そうとしてくれてたはずのベポが急にピシリと固まった。
ああ、うん、何となく分かった。私の背後に黒く不吉すぎるオーラを纏ったキャプテンが刀を掲げて居るのね。くるり、振り返れば案の定だ。

「.........また今度聞くわベポ」
「余計な詮索は止めろ。バラすぞ」
「あらキャプテン。そう言って一度もバラしたことないくせに」

一歩近づいてその顔を見上げれば少しだけ表情が変わった。それは...あの日見た驚いた表情によく似ていた。


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