お散歩日和
何度呼んでも返事はない。あまり呼び過ぎるとキツク睨まれる。
声は届いているらしいけど返事もないまま勝手に用件を言うわけにはいかずに私は何度となく彼を呼ぶ。
「ねえ、キャプテン」
「.........」
「ちょっと話があるんだけど」
いつも通りの反応。船内に寝そべってはいるけど寝息はしないから絶対起きてると私は確信してる。
試しに傍に居たベポをチラリと見たけど、彼もまた起きてると言わんばかりの反応を見せた。理由はよく分からないけど、ベポは彼から頼まれて(脅されて?)何があっても寝てるから起こすな、というジェスチャーをするんだ。それが例え、彼の目が開いていたとしても。
「返事くらいしてもらわないと話が進まないわ」
「.........(待て起こすな)」
「ならベポ、キャプテンに伝えて。用件あって町へ行くって」
ベポにも寝たフリのキャプテンにも聞こえるようにそう言って、バック片手に彼らに背を向けようとした時、ようやく彼が動いた。
「.........その用件をハッキリ言え」
それを敢えて聞くくらいなら最初から返事をすればいいものを。
「起きてるなら返事くらいして下さい」
「用件を言えと言ってるんだが?」
「返事が先よ」
「.........バラされたいのか?」
「好きなだけ。薬師兼ナースは星の数...まではいかないけどいるわよ」
ただ好き好んで海賊になってまでやりたい子は少ないかもしれないけど。とは言わず。
そう、私は医者ではなく単なる薬売りとして生きてたのを彼に拾われた。自分は医者だと告げた彼に私は薬を売るだけで良かったのに、あれよあれよという間にこの船に乗ることになった。今になって思えば私は騙されたようなもの。だって最初、私はこの船が潜水艦だということは分かっても彼が海賊だということを知らなかったんだから。
「.........それで、船を浮上させて町まで行くほどの用件は何だ」
「船を浮上させて町まで行った先にある山に珍しい薬草があることが分かったの。採りに行くのよ」
「なら好きにしろ。但し、一時間だけだ」
「.........間に合わなかったら見捨てて頂戴ね。じゃあ船を上げてもらうわ」
許可有難う、と嫌味たっぷりに言えば彼の眉間にシワが寄った。そして、何故かベポがぴしっと固まった。
ここのクルーが言うには、私はもう何百とバラされてもう原形を留めていないらしい。つまり私は死んでいてもおかしくないらしい。
逆らう、口答えする、我を通す...そこまでしてそれでも生きてこの船に居ることは奇跡に近くて「薬の知識があって良かったな」としみじみ肩を叩かれる。いや、もう此処までくればバラバラになった方が...なんて思わなくもないんだけど。
浮上した船。オーケーが出て扉を開けるとまあ散歩日和。
もう少し話の分かる船長さんだったら「薬草採取がてら皆さんでハイキングでも行きませんか」とか提案するところだけどあの人では一蹴されるのが関の山。というより、もう過去に一蹴されたから言わないけども。
「じゃ、行って来ます。夕方までには戻りますんで」
扉を開けてくれたクルーにそう声を掛けて船を降りようとしたら、何処から出て来たのか前方にキャプテンの姿。
「おれも行く」
「.........はい?」
「意見は聞かない。命令だ」
お散歩日和
保護者のつもりでついて来たのかは分からないけど、私が薬草に夢中になっている間ずっと彼は寝ていた。しれっと場所を変えても気付けば何故か近くに居た。いつものように返事すらしない寝たフリだけど。
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