ONE PIECE [SHORT] | ナノ

コール

「ベレッター!!」
「おわっ、ど、どうしたのエース」
「一生のお願い!助けて下さい!」
「.........また負けたのね」

ついでに今ので32回目のお願いです。アンタの一生のお願いは今後どれだけあるのよ。

パパの頼みで買い出しに行って女性にしか売らないっていうよく分かんないお酒を届けた直後に背後から喰らったラリアット。そのまま背中に温かい額を押し付けられた時に体当たりして来た人物がエースだって気付く。いつもそう。人に物を頼む時に顔を見ずにいるのはプライド高いからかしら...って、私なんかに頭下げるエースにプライドはあまり無さそうだけど。

「ねえ、カモられるって分かってて何で賭け事するのよ」
「それは...い、言えねェ、けど」
「言えないんかい。で、何処で誰と賭けたの」

と聞けば、「食堂でマルコたちと」と呟いた。

「分かった。行くわよエース」
「.........さんきゅ」

はあ、とダイナミックな溜め息を吐けばエースは小さな声で「ごめん」と呟く。
その「ごめん」の精神があるんならギャンブルなんざ止めてしまえばいいのにそれはしない。別に賭け事すんなって話じゃない。ただ、カモられて泣いて助けてーするくらいならやんなきゃいいじゃんにはなる。32回目だからね、馬鹿でもそろそろ自粛してろって話。

甲板から食堂へ、そこへ近づけば近づくほど汚ない声が飛び交う。何処の賭博場だよ。
この空気、本当は好きじゃないんだけど(下ネタ多いし)項垂れるエースを見たら...溜め息混じりでも行かないわけにはいかない。

「お、エースの保護者登場だぜ」

静かに扉を開けたにも関わらずその小さな物音だけで一斉に隊長たちが振り返る。
うん、オッサン密度凄いよ。換気した方がいいよ、の場所で一番奥に居るマルコ隊長たちの席へと歩く。

「良かったなァ、助けてくれるお姉ちゃんが居てさ」
「.........言われてますよエースくん」
「うっせェ」

あー聞こえない聞こえない。その良く分かんない意地的な一言なんか。
で、エースをカモったと思われる隊長たちは随分とまあニヤニヤ笑って私を見てるわけですけど...うわ、何か凄い札束を各自持ってる。エースの有り金全部吸い取ったってカンジだ。これの回収って...何戦すればいいんだろう。

「馬鹿な弟を持ったお姉ちゃんも大変だねい」
「そう思うならカモらないで欲しいんですけど」
「バーカ、エースがどうしても賭けるって聞かないんだぜベレッタちゃん」
「.........そこを頑張って止めるのが先輩隊長たちの使命では?」
「そんな使命もらってねェよ」

おそらくエースが座ってただろう席へ腰掛ければ対面にマルコ隊長、左右にサッチ隊長とイゾウ隊長。
結構な回数でこの席に座るけど...慣れない。全然食べる気もしないパイナップルとフランスパンと似合いすぎてる女装家ですよ。気合い入れて座ってないと卒倒するっていうかある意味吹き出してしまいそうになる。女装家の朝食かってカンジで。

「でだ。ベレッタ、賭け金は?」

私の手持ちはバック一つ。そりゃそうだ、買い出し終わった直後にコレだもの。
此処に好き好んで賭けに来る連中は決まって有り金をケースか何かに入れて持って来るみたいだけど、私のは本当に普通のバックでとても大金が入ってるようには見えないらしい。でもね、今日は違うのよ。

「さっきパパから貰った御駄賃」
「おいおい足りねェんじゃね?こちとら100万単位でやってんだぜ?」
「足りるわよ。御駄賃1200万ベリーだし」
「オヤジ!?」

パパってば優しいから換金したばっかでその辺に置かれてたお金をくれた。
御駄賃だって言って...物凄く助かる。ほら、オンナは何かと必要なものが多くて着の身着のままとか有り得ないし、月のものの所為で薬やらソレやらで本当に経費が掛かるんだ。一回、航海に出るとどのくらい陸地を離れるか分からないし...買い溜めにほんとお金掛かる。

「で、エースはいくらやられたの?」
「.........700万」

唖然とするサッチ隊長を無視してまた溜め息を吐いた。
大体、こんなどうしようもないのに700万も持たせた人が悪い。いくら配当金だとしても別の人に管理させればいいのに。

「ほんと馬鹿」
「.........ごめん」
「とりあえず...サクサク取り返しましょうかしら」

煙草臭いの嫌いだし、毎回ながら視線も何か痛いから。

「いつものゲームよね?」
「あァ。別のゲームでもおれらは構わねェけど?」
「いつもので結構。エース、その他は私に近付かないで」

手持ちのカードを後ろで誰かに通達されちゃ困るから。
エースに限ってはそういうことはないと思うけど、顔に出るわ口を挟むわで邪魔になって仕方ないから毎回排除することにしてる。この団体は勘は悪くないからすぐに手持ちを悟られるんだ。見た目は個々が敵みたいだけど視線のやり取りを見る限りでは三対一の状態と言ってもおかしくない。それで手持ち知られたりしたら...不利になるんだ。

「あ、あとイゾウ隊長」
「ん?」
「イカサマした時点で700万返してもらいますから」
「.........ハイハイ」

イカサマ師にも釘は刺した。後ろを振り返れば遠巻きに皆が見てる。準備は出来た。
カードを切るのはローテーションで四回、最初の親はマルコ。手元に来るカードは前ゲームを引き摺らないものだと信じてる。いや、引き摺っても構わないけど少なくとも私のとこだけにして欲しいと思う。

「ベレッタがいるから細かいルールは取っ払う。勝つか負けるかだ。チップは全て勝者に回す。ついでにフォールドは認めないよい」


今日も、神降臨を祈ります。




.........で、本日5戦目。通算159戦目。

「よーいよい...」
「.........あんま良くねェな」
「ん?おれは結構イイぜ。ベレッタちゃんは?」
「.........」
「おいおい、もっと楽しくやろうぜ」

楽しくとか無理に決まってる。毎回ながらだけど手持ちを減らさず賭けたお金を回収するのは大変なんだ。
現在、サッチ隊長全敗で400万が消えた。マルコ隊長とイゾウ隊長が1勝ずつでプラマイゼロ。私が2勝したからサッチ隊長の400万が移動して来た状態。此処で勝てたら即終了、負けたらまたコツコツ頑張らないといけないんだ。

「オープニングベット」

イゾウ隊長が笑う。
今はイゾウ隊長が親だから自分のイイ役が回って来たところで勝負を仕掛けて来た。自信あるのがミエミエだ。

「1チップ」

けど、私だって悪くない役が回って来てる。
取り返すべきお金はあと300万だから、賭け金は1チップ100万でいい。ここで調子こいて跳ね上げて負けるとかしたくない。多分、マルコ隊長たちもそのつもりでコールすると思うけど...イゾウ隊長だけはよく分からない。賭けにも引きにも強い人みたいだから。
そんなことを考えながら横目で彼を見れば綺麗な微笑みを浮かべられてゾッとした。美人で綺麗なんだけど恐ろしく悪い顔だ。

「コール」
「ほんとはフォールドしてェんだけどなァ...コール」

これでイゾウ隊長がコールすれば跳ね上がらない。
本当に役が悪いのか、サッチ隊長はすっごい顔してイゾウ隊長を見ててマルコ隊長も冷静に彼を見た。当然、私も彼の一言待ちで...彼はその素敵に恐ろしい笑みを浮かべたままスッとチップを3枚突き出して来た。

「そりゃ面白くねェ。ほんじゃおれはレイズ。プラスで2チップ」
「なっ、」

よっぽど自信があるのか3チップに跳ね上がったイゾウ隊長の所為で。
ルールとして、全員の掛け金が同じになるまでベットは続けられる。イゾウ隊長が3枚なら私たちも3枚にしなきゃいけない。次、隊長が跳ね上げるようなことしたら...いよいよ私のお金まで持ってかれることになるかもしれない。

「コール」
「あーあ、散々だねい。コール」
「死ねイゾウ。コール」
「よし、コールだ」

恨みがましいサッチ隊長の様子を見れば彼はまた惨敗らしい。涼しい顔をしていたはずのマルコ隊長の表情が曇ったところを見ると...それなりの役ではあるけど勝てるかどうかの瀬戸際みたいだ。そして私、やっぱり勝てるか勝てないの瀬戸際を走る。

周囲はやけに静か。誰も自分たちのゲームをしてないらしい。


「ショー・ダウン」


四人分のカードが明かされた。

「フルハウス」
「私もフルハウス」
「あー...フラッシュ。負けだよい」
「ワンペア」

マルコ隊長とサッチ隊長のカードに一気に興味がなくなって私はイゾウ隊長のカードを、イゾウ隊長は私のカードをガン見した。
同じフルハウスなら3枚のカードの数字が大きい方が勝つ。数字が同じならジョーカーの数が少ない方が勝つ。それでも決まらなければマーク...というカンジだけど、どうやらそこまでガン見しなくて済んだらしい。

「.........私の勝ち、ですね」
「.........ちっ、」

数字で見てもジョーカーの数で見ても完全に私の方が勝ってる。

「や、やった!!えらいぞベレッター!!」
「ちょっ、声、うるさっ、」
「山分けしよう!おれの700返って来て...300ずつ!」
「阿呆か!!」

私の肩を揺すりながら満面の笑みで何寝呆けたこと言ってんだこの阿呆エースめ!

「200万ずつ隊長にお返しします」
「え!?」
「損しなきゃどうでもいいじゃない。私の役目は700万取り返すことよエース」

一旦、此方に回って来た現金から700万だけ受け取って残りの600万をテーブルに残した。私のお金はそもそも動いてないからそのままシッカリ存在してる。損得なし。それの何が悪いのか彼らみたくギャンブラーじゃないから私には分からない。

残された600万、サッチ隊長はいきなし手を伸ばしたけど他の二人は唖然としてる。唖然として...イゾウ隊長が急に笑い出して袂から一冊の本を突き出して来た。何の、本だろう。それを見たエースがビクッて震えたけど...?

「エースがどうしても賭けるって聞かなかった理由、お前にやるよ」
「.........何の本ですか?」
「ちょっ、それ、はっ、」

.........成程、エロ本か。エース最悪。

「エース」
「な、何だよ」
「この本、欲しかったら700万で売ってあげる」

持ち金叩いても欲しかった代物なんでしょう、だったら売ってあげる。
てか、賭け金になるだけのエロ本って一体どんだけ価値のあるものなんだろう。エロ・モロ・グロってやつ?ほんと最低。

「おいおい、中見なくていいのかァ?」
.........良いも悪いも見たくないです。そんなエロ本とか。

「あーあ」
.........こっちがそう言いたいです。たかがエロ本の為にとか馬鹿みたい。32回もお願いされて助けてガッカリよ。

「どうするの?買うの買わないの?」
「か、買います...」

その返答に盛大に溜め息を吐いてしまった。
いや、別にいいんだけど下らない。いいんだけど幻滅はしたよ。でも、確かに理由言えないわよね。

「じゃ、700万もらってく。エースは後生大事にエロ本抱えるといいわ」
「え、エロ本!?ちょっ、それ、誤解っ、」
「言い訳は聞きません。次から知らないんだから」

違う違う誤解だと大声で叫ぶエースを放置して私は食堂を出た。
でもまあ...御駄賃プラスで臨時収入も手に入ったわけだからいっか、くらいの感覚でそのまま個人金庫室へと向かった。


コール ... 「呼ぶ」と「賭け金同じ」を掛けてみた。
>マルコ、サッチ等と仲が良く同期のような姐御ヒロインになつくエース、とのこと。しれっとクリスマスリクでamiさんに捧げます。
よく考えたら短編エース初です。初エースがいきなし連載でしたから「あ、そういえば」となりました。
こちらのエースは甘えてるというより縋ってるカンジですね。助けてドラ●もんー状態ですが如何だったでしょうか?個人的に多少、不完全燃焼だったのでオマケを付けています。良かったらそちらも一緒に貰って下さい。本当に有難う御座いました!
おまけ

(2/7)
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