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それは誕生日直前、ほんの数時間前のこと。
「ねえ、何が欲しい?」と、悩んだ挙句に敢えて彼に聞いてみた。



ほしいもの。



私は思わず吹き出した。
エアーだけで良かった。これで何か物でも食べていたら間違いなく大惨事となってたと思う。

「そこまで吹きますか」
「吹くに決まってるじゃない!」

「ねえ、何が欲しい?」の返事が間髪入れずに「愛」なんて言うキャラか!
しかもしれっと無表情で「それが何か?」くらい当たり前に言われた日には吹き出すしかない。
てか「愛」とかどうやってプレゼントしたらいいんだって話。リボンも掛けられないし。

「"愛"だよ"愛"!」
「ええ。君からの愛で十分ですよ」
「それってどう渡せと?」
「知りませんよ。ご自分で考えなさいな」
「なっ」

フン、と冷たく去ってく永四郎の背中を眺めながら少しムカムカしてた。
あの男…自分で「愛」とか言っときながら「自分で考えろ」って一体何だっつーの!
むしろ、私にどうしろって言ってるんだよ!最後まできちんと言ってから帰れ!!




で、帰宅した私はパチパチと友達に相談していた。
永四郎が欲しがっている「愛」とやらをどうやって渡せばいいのか、どうラッピングすればいいのか。
当然だけど大爆笑するであろう友達に「くれぐれも口外しないように」と付け加えながら。

くそー何でこう難しいプレゼントを要求してるんだアイツ。
普通に物とか物とか物とかで言えばいいのに何故カタチのない物を欲してるんだ!
マズイ…マズイぞ。このままでは当日、何もプレゼントが準備出来なくて「君は冷たい人ですね」とか言われる!
それをわざわざ皆の前でしれっと言われた日には…彼氏の誕生日に何もしない女のレッテルが!

ぎぃやあ!と叫ぶ私の元に返事が返って来た。
なになに…"今から私の教えた通りの行動をしなさい"って命令形ナンデスカ!?
でも、私にはどうしていいかサッパリだし、従うしか選択肢はないってことだよね…


1. 私に一度電話して、そのまま泊まりに行くと告げなさい。
両親の様子がおかしい、納得してないようなら私が代わりに話してあげるからとにかく外泊許可を。

2. 適当なケーキを買いなさい。
個人的にミルフィーユが食べたい。でも予算の都合もあるだろうから適当に買いなさい。

3. そのまま木手のところへ行き、おめでとうと告げなさい。
夜道は危険だけど十分に注意しながら歩くのよ。特にケーキが大事だから。以上!


……何それ。
要はケーキ食べながら話をしようってこと、だよね?その前に日付変わりそうだから「おめでとう」と言え、と。
何かさあ、そんなことしたら永四郎逆上しそうな気がするんだけど。でも、しょうがないかあ。


友達の言う通り、電話しながら親に外泊許可を取って(結局代わて話もしてもらった)ケーキ屋へ。
ミルフィーユが食べたいって言ってたからソレと私の食べたいものを多めに買ってみる。で、永四郎の分としてプリンを。
買い過ぎたかな?くらいの量になったケーキの箱を持って今度は永四郎の家へ。
結構、此処から距離はあるけどケーキが潰れたりしないように大事に持って歩く。暗くて躓きそうなのに注意して。

「はあ…走ったらケーキぐちゃぐちゃになるよね」

そこそこ距離のある道のりに早くも弱音全開になってしまう。基本、面倒なのは嫌いだから。
でもケーキは食べたいし友達も待ってるしなあ、と考えながら歩いてれば前方からランナーがやって来る。
ただおかしなことにフツーの服、汗を拭くためのタオルも持ち合わせていないランナーで「ん?」となるけども。
あー…こういう場合は一応挨拶的な行動をするべきなのかな?

「お…お疲れ様です」

擦れ違う手前でボソリと呟いてお辞儀すれば、ポコッと頭に痛みを感じた。

「お疲れ様、じゃないでしょう」
「へ?」
「こんな時間にフラフラするなんて許しませんよ」
「あれ?永四郎?」

何で此処に居るんだ?と首を傾げればまた叩かれた。痛くはないけど暴力反対。

「平古場くん経由で連絡頂いたんですよ。君がこちらに向かってると」
「あーそうなんだ」
「君ね、友達にそそのかされてとんでもない事になってるんですよ」
「ええ!?」
「からかった俺も悪いですがまさかこんなことになるとは…」
「え、何、そんな一大事…?」

話の見えない展開にオロオロすれば永四郎はただ溜め息を吐いてケーキを奪い取る。
空いた手で私の手を引いて「話は俺の部屋で」とだけ呟いて歩く。
怒っているのか呆れているのか、全く表情が読めない永四郎に引き摺られ、ただ歩く私。


部屋に案内された私。
私自身が「テニス部員からの"愛"あるプレゼント」となっていたことを…まだ知らない。



Let's congratulate it by the best!
| 2011.09.17. Raisa
(5/6)
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