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それは誕生日直前、ほんの数時間前のこと。
「ねえ、何が欲しい?」と、悩んだ挙句に敢えて彼に聞いてみた。



ほしいもの。



「フツーに考えてお前が欲しいんやけど」
「……却下」
「えー何でも欲しいもんくれるんとちゃうん?」
「"何でも"なんて迂闊なこと侑士には言いません」

脳内がどんなもので詰まってるか分からない人物に対して「何でも」なんて恐ろしい言葉は吐けない。
これが宍戸っちとか岳ちゃんとかジロちゃんなら平気だろうけど、侑士を筆頭とした跡部とかには絶対ダメな言葉だ。

「えーほな何にしよ」
「比較的に安価で買えるものにしてくれる?」
「ほな尚更――…」
「却下!」

と、こんな不毛なやり取りをしたけど、結局侑士は「考えとく」と笑って帰路についた。




誕生日はもうすぐだってのに「考えとく」って当日バタバタする私を見て楽しむつもりなんだろうか。
それから数時間が経過したけど一向に何も言って来ない侑士は一体どんな策を練っているのだろう。

……何か、とてつもなく嫌な予感がする。
悪寒にも似た感覚が体中を駆け巡る。何か分からないけどこのままじゃいけない気がする…
侑士は卑怯なくらいの策士だ。相手の出方を予測しつつ自分の思う方向へと動かせるだけの脳を持ってる。
何か、ありそう。そんな変な感覚が拭い切れず私は適当な言い訳をして外へ出ていた。


10月の夜は嫌いじゃなかった。
暑くもないし言うほど寒くもないから嫌いじゃない。
月もそこそこ綺麗でぼんやり眺められる。かと言ってこのまま野宿するにはいかないわけで。
近場の公園のブランコに腰掛けて携帯を開いてアドレス帳を開く。勿論、今日泊めてもらうために。

まず一人目の友人にパチパチッと内容を打って送信。するとすぐさま返事が返って来て「NO」が確定。
次に別の友人へ同じメールを送信。今度もまた「NO」の返事が返って来る。急だから仕方ない。
もう一人、もう一人…と同じことを繰り返すけど次々に送られて来る返事は「NO」ばかり。一人くらい「OK」の子が居てもいいのに。

「世の中、うまくいかんもんですなあ…」

無駄に呟いた一言は虚しい。
でも、返って来ないと分かっていての呟きであって、返事なんか求めているわけなかった。

「運、悪いのかしら私…」
「いーや、俺がきっかり根回ししとったからです」
「え?」
「それに、世の中うまくいけへんのは世の中をよう見てへんからです」

……そこにはニコニコ微笑む侑士が居た。

「さっすが、俺の思考読んでの先回りは完璧やわ。けど俺の方が上手やったな」
「……やっぱり、乗り込んで来そうな気がしたのよ」
「せやね。家から引っ張り出す作戦もあったんやけど手間省けたわ」

空いてるブランコに腰掛けた侑士は「やられた」の私とは裏腹に「してやったり」な顔でこちらを見ていた。
このままではマズイ気がする。何か、こう、マズイと思われる…

「なあ」
「な、何」
「何があかんのか教えてくれへん?」

笑ってるけど少しだけ寂しそうな顔をする侑士にドキッとする。
ヘラヘラしてる彼は彼でどうしようもないけど、こんな風に笑うと…少し感情揺れるものがあって、困る。

「めっちゃ好きな子がおって、その子抱きたいなーっちゅうのはおかしいんかな」
「……」
「おかしいんならしゃーないけど、せやけど特別な日くらいずっと傍におって欲しいとか思うとる」
「侑士…」


……私は、何で逃げてたんだろう。
冗談みたいに言われたから拒否した、でも、もしかしたら侑士を酷く傷付けてたかもしれないのに。


「プレゼント、くれるんやろ?」
「……うん」
「傍におって」
「……うん」

よし、と大きく頷いた侑士が手を差し伸べて、それに私も手を添える。
大きく温かな手、いつもより握り返す力が弱い。何だろう、それだけなのに怖くてぎゅっと私が力を入れた。

「……ごめん」
「謝ることあれへんよ」
「でも…ごめん」

どうしようもない謝罪を口にする私に優しく笑ってくれる人。
不安を掻き消してくれるかのように侑士もまたぎゅっと手を握って歩き始める。けど、

「ちょっ…歩くの速いよ!」
「いやな、もう限界やっちゅうねん」
「何が」

いつもの笑顔、数時間前に見た…笑顔だ。

「やっぱ俺の方が上手やわ」
「え?」
「俺以外の男に騙されんよーにな」

くすくす笑う侑士にハタと気付くことがあって…でも気付いた時にはもう手遅れで。
離すまいと力いっぱい握られた手を振りほどくだけの力などなくどんどん引き摺られてく。

「だ、騙したわね!」
「別に。嘘は言うてへんもーん」


笑う侑士、引き摺られる私。
もうすぐ今日から明日へと日付が変わる。



Let's congratulate it by the best!
| 2011.09.17. Raisa
(4/6)
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