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それは誕生日直前、ほんの数時間前のこと。
「ねえ、何が欲しい?」と、悩んだ挙句に敢えて彼に聞いてみた。



ほしいもの。



帰宅した私はとにかく頭を抱えた。


「……欲しいものだと?俺様の手に掛かれば望んで手に入らねえもんなんざねえよ」


フフン、と鼻で笑いながら庶民から貰うプレゼントなんざ欲しかねえよバーカ、と言わんばかりの言葉を返されたから。
ある意味では想定内の回答ではあったけど、こうもあっさり言われたんじゃ準備のしようがない。
だからといって「何もいらないんだね」って言ったところで景吾は暴君ネロのように激怒すると思うし…
あー頭が痛い。普通じゃない感覚の持ち主だもんなあ。特に金銭感覚とか。


「おい、夏休みはイギリスに行くぞ」
「はあ?そんなん誰がついて行けるか!(行きませんでした)」

「そこらの海で海水浴だあ?沖縄にプライベートビーチがあるから飛ぶか?」
「と、飛べるか!!(結局、自家用ジェットで飛びました)」

「……ディズニーランド?別に行ってもいいが、何なら本場を貸し切るか?」
「貸し切るな!!(フツーに行って人混みの多さにキレられました)」


と、まあこんな具合。絶対に普通じゃない。
そんな感覚の人に何をプレゼントすりゃいいのか、なんて一般人には分かりませんよ。
うーんうーんと悩んでもイイ案は浮かんで来ない。

そういえば去年はどんなプレゼント……あ、景吾が「一日付き合え」って言って四六時中一緒に居たっけ。
まあ、その時は景吾の言う通りにしたし、でも今年の参考にならないなあ。
その前は確か…テニス用品で欲しいものが出来たとか何とか言って安物のリストバンド買ってあげたような。
今になって思えばあんな安物のリストバンドなんかで良かったのかしら。景吾ってよく分かんない。


「これじゃ埒が明かない…」


……うん、誰かに相談した方が良さそうだ。
そう思って携帯を手にすれば点滅してる。誰かが連絡を入れてたらしい。
開けて確認してみれば友達のメールと混じって景吾からもメールが入ってることに気付く。


『結局、何をくれることにしたんだ?』


絶対このメールはニヤニヤしながら打ったに決まってる…
こっちが悩んでるのを分かってて意地悪な質問だ。で、このメールの返事はこうだ。


『何も決まってない』


返信後、跡部からもすぐに返事が届く。


『あれから時間は経ってねえか?』
『そうね。数時間は経ってる。でも浮かばなくて頭痛いよ』

『知恵熱出すなよ』
『出たら景吾の所為よ』

『俺の所為になるのか?』
『なるよ。物凄く必死で考えてるもん』


一言、アレが欲しいと言ってくれればこんなに悩むことはなかったのに。
と、返信しながら顔の見えない、何も知らない景吾に向かってベーッと舌を出して抗議する。
そんなことをしながらもまだ「何もあげない」なんて選択肢を選べない私は我ながら情けないんだけど。

無情にも時間は刻一刻と過ぎてってどんどん景吾の誕生日へと向かっていく。
何か、景吾に合うものを渡したい。景吾が喜ぶものを、あげたい。


『本当に欲しいもの、ない?』
『ない』

『本当の本当に?』
『ああ』


ならもうあげなくてもいいね、とプラスしてメールを打っている途中で景吾からメールが入った。


『もう欲しいプレゼントは貰った』


……誰から貰ったんだろう。
無難に考えるなら忍足とかが跡部に近いカンジがするから忍足からかな。
でも超富裕層の景吾だから私と同じ一般的な宍戸とか岳ちゃんとかから珍しい物貰って満足しちゃったとかも有り得る。
それ以外となるなら…他の女の子からとか。毎年凄い数になるもの、その中に一つくらいは…あったのかも。

あげるものより貰ったものを今度は悶々と考える。
今日の私はいつもの三倍は脳を動かしてる気がするや。考えるのは面倒な方なのにさ。
またもうーんうーんとしてる私に今度は着信音が鳴る。


「景吾?」
『もうそろそろきちんと言わねえとお前、勘違いするだろ?』
「何のことよ」
『俺の欲しかったプレゼントのことだ』
「え?もう貰ったんでしょ?」
『ああ貰った』


貰ったんならいいじゃん、と心の中で呟くも口にはせず、またもベーッと舌を出して無言の抗議。
何か本当に知恵熱出そうだよ。いつもの三倍どころじゃなく脳がグルグル頑張ってるよ。
それを景吾に言ってやろうかと言葉をまとめていたら、彼がとても嬉しそうに…だけど笑いながらこう言った。


『俺のことを知恵熱出るくらいまで考えるお前の時間が欲しかったんだ』


……どうしよう。今すぐ、景吾に会いたい。



Let's congratulate it by the best!
| 2011.09.16. Raisa
(2/6)
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