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それは誕生日直前、ほんの数時間前のこと。
「ねえ、何が欲しい?」と、悩んだ挙句に敢えて彼に聞いてみた。



ほしいもの。



「おー色々あんだけど―…」と脳裏に色んな物を浮かべた亮が口元に手を当て上を向く。
よし、これで悩まずに早期解決するじゃん!と期待した私は、後に後悔することとなることを知らない。




見事なまでにぐちゃぐちゃにしてしまったキッチンは甘い匂いが立ち込めていて息苦しかった。
零してしまったバニラエッセンスは拭いても拭いても甘く、換気しても換気しても簡単には消えない。
ボウルに張り付いた生地は随分長いこと水に付け込んでいるけど取れる様子はなく、他の道具もまた同じ。

「……本当に不器用だなお前」
「亮に言われたくないよ!てか亮の所為だし!」

地団駄踏む私に亮はただ呆れていた。
「手作りのケーキ食ってみてえな」とか言われて勝手も知らない家でケーキを焼くハメになったのは私の所為じゃない。
しかもずーっと見張られ状態で緊張したもんだから、いつもより手際も悪くなったし失敗もやらかしたし…最悪だ。

「だから家で作ってくるって言ったじゃない!」
「そんなの待ってらんねえじゃん」
「待ってらんないって…誕生日は明日だっつーの!」
「とか言いながらもう日付変わるじゃねえか。同じだ同じ」
「絶対違うし!」

どうしてくれるのよ、片付けに本当に時間掛かっちゃうよ。
ケーキを焼いている間、ずーっとゴシゴシ道具を洗い続けてるけど一向に片付かないキッチン。
亮の家族が出払ってるからっていつまでも汚いままではいけない。とにかく必死で片付けようとするけど…

「ねえ手伝ってよ」
「さーて、どうすっかな」
「どうするもこうするもないでしょうが!」
「でもよ、俺、誕生日来てんだよな」

ホレ、と指差す先には時計。で、確かに日付がバッチリ変わっている。
それを確かめるや否やニヤニヤと笑う亮にムカッとしたけど、かと言って誕生日だし…と強要も出来なくなった。
何か踏んだり蹴ったりな日だ。てか、だんだん眠くなって来たんですけど。

「……もういいよ」

色々諦めて固まった生地をゴシゴシ落とす作業に戻る。
あーでもショートケーキなんかにしなくて良かった、と洗いながらしみじみ思ってみたり。
今回、亮の要望ではあったけどチーズケーキにしたことを少しだけ感謝した。
だってほら、焼き終わったら型抜いて冷蔵庫にブチ込めばいいわけだし、それ以上のデコはもうしないって今決めたし。
片付けが終わる頃には焼き上がる…いや、焼き上がる頃には片付けも終わるだろうから、それで解放される。寝れる。

「ふわぁー…」
「何だ眠いのかよ」
「……眠いよ」

慣れない場所で緊張しながら作った所為だよ馬鹿。
と、欠伸しながら悪態吐けば…不意に後ろに回り込んだ亮がぎゅっとくっついて来た。

「……重いし邪魔なんですけど」
「あー…」
「何よ」
「新妻抱きしめたくなる気持ちってこういうのを言うんだろうな」
「知らないよ。てか、AV見過ぎじゃない?」
「……忍足じゃあるまいし」

べったりくっついて来る亮をとりあえず引き剥がして「ハイ」と布巾とボウルを手渡す。

「抱き締めなくていいからソレ拭いて片して」
「……ヘイヘイ」

結局は亮にも片付けを手伝わせて再度ゴシゴシと洗い物を始める。
黙々と作業をする中、亮が思い出したかのように「貸し1な」と呟いた一言は…スルーした。



Let's congratulate it by the best!
| 2011.09.19. Raisa
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