EVENT | ナノ

の世界

Ubrall sonst die Raserei.
――それ以外は、狂気の沙汰。



欲しいて思うたもんを奪うんの何が悪いん?

買うことも出来ひん。そこらに落ちてるわけもあれへん。拾えん。
せやったら俺に与えられる選択肢は二択しかない。諦めるんか奪うんか。最初から諦めるんやったら...ソレは別に要らへんもんと同じ。まあいっかーで済む程度のもんやて言うとるのと同じ。

俺は...ソレが絶対欲しいもんで諦めるとか無理や。


「志月さん」

俺は、満面の微笑みで彼女に声を掛けた。
ちょおビックリされたけど気にせん。そないな反応するんも当たり前っちゃ当たり前やな。今まで声掛けたりとか基本せんかったし、言うて仲ええわけでもない。

ずっと見てるだけ、ずっとそれだけで引き下がっとった。
もう......一年くらい経つやろか。

「あ、え?忍足くん?」
「教材取りに行くんやろ?」
「う、うん。そうだけど...」
「片割れが行けへんからって代わり頼まれた」

最初は、志月ゆいなんて知らんかった。

ある日偶然、街で見掛けた。
俺は部活帰り、向こうは多分友達と遊んどる最中やったんやろ。物凄い楽しそうにしとる姿に俺らしゅうもなく惹かれた。気付いたら目で追っとった。ま、単純に一目惚れ。フツーに自分でも驚いたわ。

氷帝の制服。1年か2年か3年かも分からん状況下。
誰やろ...て捜すなんてほんまに阿呆らしい。で、案外あっさり見つかった。隣のクラスにヒョコっと顔出してみたら彼女がおった。これは運命や!とか阿呆みたいなこと考えた自分がおったんやけど...

「あ...なら、その、よろしくお願いします」

俗に言う彼氏、それがおった。
何やろなー彼女の向かいで笑う男がおった。途中、彼女の髪とか触れてて。

あー彼氏おるんやーめちゃめちゃ仲良さそうにしとるやんか。うわーいきなしアカンやん。俺終了ー。で、溜め息吐いてハイ終わりー...て、するつもりやった。せやのに何でやろ出来んかった。

一年。一年経った今も想いは消えない。
それどころか...ずっと見てまう。誰とおっても、彼女が誰と一緒におったとしても。
究極に自分のことが分からんくなった瞬間。
彼氏持ちや彼氏持ち。訳分からん。他にも女て仰山おんねんで。せやのに...目で追うんは彼女のみ。

「教材、どれがいるん?」

教材取りは日直の仕事で、今日は彼女が当番。
この当番には相方もおんねんけど...俺が行くからええよ、て笑顔で言うて交代してもろた。ちょおビックリされた感じはしてんけど、まあ任されて彼女に声掛けて...現在に至る。

「世界地図と地球儀と...いや、だけ、かな」
「ちゃーんと聞いとかんとあかんやん自分」
「うう...ごめん。でも確か二つだったと思う」

うん。かわええから許すわ。

今年になって運がええんか悪いんか同じクラスになった彼女。当然、もっと身近なとこで見れて...笑う姿も見れるようになった。まあ、その笑顔は俺に一切向けられてへんのが何とも言えへんけど、可愛らしい笑顔で教室におるっちゅうんは俺としては嬉しかった。

......彼氏とも相変わらず仲ええんやろか。
そんなん知りたないとこけど、彼女が笑う度に気になった。そう、そないなこと思う自分がいつからか...真っ黒いもんに変わってく感覚。俺のもんにしたい、俺だけのもんになれへんやろか、でも彼氏が...いや、彼氏とか関係あるか?脳内で色んな自分が呟いては黒くしてく。

「あーあれやな。でっかい地図」
「うん、それそれ。どっちも高いから大事に扱えって言われたよ」
「ほなら自分で運んでくれってな」
「ふふ。ほんとだよ」

最初は黒い自分の中にもまともなのもおった気がする。せやけど飲み込まれた。今の俺は自分に忠実で...彼女に向ける笑顔は仮面みたいなもんやて、自分で思うとる。

「あー...何か一人でどっちも持てるそう」
「そう言わんと。俺来た意味ないやん」

付けた仮面の下は、きっと冷たい顔した自分がおるんや。
今はええよ、相手が俺やから。けど、こうして話しとる相手が俺やなかったら...そう考えただけで俺の脳内はぐちゃぐちゃになる。ぐちゃぐちゃになって、色々おかしなるねん。

「はは、そうだね」

......せやからあんま可愛く笑わんといて。
そう、志月と話するためにだけに付いて来たんやない。そない優しないで。

他愛もない会話をしながら着実に目的地へと進む。
不思議なもんや。落ち着けと耳打ちする自分と落ち着いて振舞う俺自身と、仮面の下で黒く笑う奥底の自分。ここ数日、耽々とチャンスを狙ろうて来た自分が、少しずつ少しずつ、表へ出てくる感覚。

今を、見逃すとかありえへんやろ。今を、見過ごすこともありえへんやろ。
俺は目の前に出された選択肢から選んだ。彼女の意志とは関係なく。

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