#01
多分、塾の帰り道。
決まってその子は木曜日の同じ時間帯に遅すぎる晩メシを食ってく。
そして、決まって同じ席に同じ男が向かいに座ってずっと話をしてる。
おれには分からない内輪ネタで。
「お待たせしましたー」
「おっ、来た来た」
「あ、有難う御座いまーす...って、私の分の箸も取ってよ宍戸!」
「ヘイヘイ」
多分、高校生。多分、受験生。
鞄に付けられたお守りには「合格祈願」なんて書いてあるから。
おれは大学とか興味ねェからすぐに此処で働いてっけど、その子はまだまだ勉強したい事があるらしい。
「うん、やっぱコレ美味しい」
「そっかあ?俺はコッチの方が好きだ」
どうやら好きでこの店に来てくれているらしい。
そう、気付いたら常連の学生になってて、本当は聞かなくてもオーダーが分かる。
ただ分からないのは、その子の名前だけ。
「「御馳走さまでしたー」」
「有難う御座いました。またどうぞー」
この時だけ、その子はおれを見て微笑んでくれる。
「いつも有難う」と本当は言って会話を広げたいけど...へらへら出来ない理由がある。
その辺の客みたいに慣れ慣れしく出来ない理由を、おれは知ってて乗り越えられないなんざヘタレだろうか。
「よし、いつも通り反省会だ宍戸!」
「.........またかよ」
その子に本気、だからだ。
2013/03/22 17:08
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