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#08

おもむろに通帳を開いてみた。
貯金残高は...うん、やっぱり大してない。バイトの割には貯めている方だと思いたいけど、これじゃ引っ越しなんて到底無理レベルで足りない。

最近、胸中穏やかに過ごせなくなっている。
だから心機一転!引っ越しを目論んでみたわけだけど...物事に必要なのはやる気と根性と金だね。一つでも欠けると何も出来ないや。うん。
今の私はやる気も根性もあるよ?愛と勇気も備えてる。だけど...

フツーに金がない。
やっぱり何事も金がないと世界は回らないですねー

「......何で私、この部屋借りたんだろう...」

家族の反対を押し切って独り暮らしを始めて自分で選んだ初めての部屋...
水道費が家賃に含まれてるからって各地(台所の蛇口、トイレのタンク)の漏水を見逃された面白い物件だったりする。管理会社にも一応連絡したけど今のところスルーだよ。スルー歴何年だろう。でも嫌いじゃないから住み着いてるんだけど、最近はもう穏やかではない。

銀行のATMで溜め息を吐いても仕方ないけど、ついつい溜め息を吐いてしまった。

ネット検索によると、引っ越しに掛かる初期費用とやらは大体40万前後らしい。
家賃、敷金、礼金、保証料、管理費etc. うん。引っ越せたとしても死ぬね私、という金額だ。

「......バイト、増やすかな」

ただただ、生きていくなら今のバイトで十分なんだけどなぁ。

「え?君、バイト探してるの?」
「え?......ひっ!」
「あらら...ごめんごめん。驚かしちゃった?」

お巡りさん!この人です!!!
私の生活を乱し始めて穏やかな日々を過ごせなくなり始めた元凶です!!!

「でも君さーきっちり8時間労働でしょ?前後にバイト入れたら体もたないよ?」

何故私がきっちり8時間労働のバイターだって知ってるんだ!?
私はアナタが何処の誰でどんな仕事をしてて何時間労働してるかなんて知らないんですけど!!

「と、言う事で提案」

口をパクパクさせるだけの私に身を屈めた彼が続けて言った。

「日当2万、経費別途、家政婦の仕事やんない?」
「.........はいい?」
「実はさァー...」



.........

今の私の心境はとても複雑です。

まず、ガチで引っ越したいので日当の2万がとてつもない魔力を持つ供物に思えた事。
次に、その供物を捧げようとしているのは...危険人物に相当する人物である事。
次に、家政婦として雇いたいという依頼人が彼自身であった事。
最後に、依頼人の家というのが私の隣で...

「.........」

汚部屋であった事。
とても同じフロアで同じ間取りの部屋とは思えない。

「いやァ、見える範囲だけは綺麗にしてるんだよねェ」

見える範囲→玄関先のみ。
靴を履いたまま、チラッと見せてもらった廊下→部屋の光景はヤバかった。

「前にハウスクリーニング頼んだらね、日当2万の月給だったよ」

ひと月25日として計算して2万...50万!!?
何をどうした時にそんな費用が発生するくらいの汚部屋になったんですか!!?

「やっぱテキトーに頼んじゃダメだね」
「.........」
「だから家政婦さん雇うかなーと思って」

君の好きな時間、好きな曜日、好きな時間帯に来て掃除をする。
必要経費は別途支払うけど、一応領収書と引き換え。
給料は15日と30日の2回に分けて支払う。

「どうかな?」

......神様、私はもう悪魔と契約しそうな気がします。

2018/07/14
(8/13)
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