澄んだ空にはチカチカと小さく光る金平糖が散らばっていた。それを邪魔しないようにか、民家の光は身を潜めている。お陰で輝く砂糖菓子は一層瞬いていた。実を言えば、亜双義の下宿で深酒をたしなみ、次に目が覚めるととっぷりと夜が更けていたという話だ。火照りが残った体を冷ますために部屋着のまま外へと歩みを進めると、自分の足音と少し遅れて土を踏み締める音がした。
「飲みすぎたな」
「ああ、全く」
返事と共に振り返ると、いつもより細い目をした亜双義が立っていた。既に火を携えた煙草からは、ゆらりと白の糸が空に延びていく。しばらくそいつを眺めて過ごす。夜は深い。昼間は眠気を誘うくらいの心地よかった風が、今はひんやりと肌寒く感じるものに変わっていた。熱を冷ますにはちょうどいい。同じことを考えていたのか、煙を吐きながら友は言った。
「少し冷えるな」
ああ。先より短い言葉を返す。亜双義はいよいよ小さくなった煙草を地面に擦りつけて、赤を消した。最後の煙を追うように天に向けられた眼差しを辿れば、降り落ちそうな満天の砂糖菓子。
なあ、聞いてくれるか。改まった口調の亜双義が、ぼくを真っ直ぐと貫く。瞳には空を写し取ったような、眩しいほどの無数の星。
「こうしてキサマに触れたいと思うのはおかしいだろうか」
夜空が一層ぼくに歩み寄る。吸い込まれてしまうのかと思ってどきどきした。あたたかい闇の中の煌めきが伏せられる。なおも隙間から溢れる光に見とれていると、強く腕を引かれた。よろめいて亜双義の腕にしがみつくと、今度は額に柔らかい感触が降った。短い前髪の無防備なぼくのおでこに小さな熱を残して、傾いた体を支えてくれた。ぼくは亜双義の腕の中にすっぽりと収まってしまう。ぎゅう、とぼくが収まる腕に力が込められたが、加減はとても優しい。まるで子供をあやすような手付きで、ぼくの髪をかき混ぜる。人に見られたらと思うと、肝が冷えたが夜は更けている。よっぽどのことがない限り人なんて起きてきやしないだろうし、こんなにもいとおしげに扱われて無下には出来なかった。
「拒まないのか」
愛撫に滑り込ませるようにそう聞いた亜双義に、後ろに回した手に力を込めて返事の代わりにした。ぼくだって離したくないんだもの。
永遠のようなしばらくの間、亜双義はぼくの毛を撫で続け、どうしたらいいものかわからずに撫でられ続けていると、夜風よりも密やかな声がぼくの鼓膜を揺らした。ひどく甘い色をした音が容赦なくぼくの脳に流れ込んでくる。今、全身で愛されていると言うのに必要なのだろうか。今さら言葉なんて。
「夢、じゃないよな?」
あまりにも都合のいい言葉ばかりが、聞こえるのは悪い気分ではないけれど少し疑ってしまう。いつもなら、褒めてくれていたのかと思ったら、二言目には洪水のような叱咤を流し込んでくると言うのに。言い終えて、少しばかり、いや、大変不躾な言葉だったと反省する。とにかく急だったから、頭が混乱していた。
それでも亜双義は怒らず、ぼくを手離すこともなく、目をより細めるばかりだ。夢にされては困る、そういうだけだった。
診断のお題「綺麗な星空の下、じっと見つめられてからおでこにキスをされ、優しい声で愛の告白をされて、思わず相手が本物か調べようとする龍アソ」
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