逆転 | ナノ

龍ノ介と亜双義

「ぼくの友達が亜双義の目が怖いなんて言うからさ、驚いた」
 試験の迫った日でないと、この大学付属の図書館は閑散としている。特に用事もない日は、放課後に話題に上る通俗小説を物色しに成歩堂を連れ立って赴いた。もっともコイツは読み物が嫌いではないようだったが、自分から図書を借りる様子はない。オレが読んだものをそのまま横流しにすると、必ず読んで戻ってきた。共通の話題作りにいいだろうと、密やかに続けられているのをコイツは気付いているのだろうか。
 しかし、今しているのは小説の話ではない。オレの噂話だ。耳にタコができるほどオレに届いていた、視線がどうだと言う噂。
「亜双義の目って確かに力強くて気圧されるけど。星空みたいで綺麗なのに」
 あとに続いた言葉は初めて聞いた。綺麗だと、そう言ったのか。
「初めて言われたな」
「そう?ぼくはずっと思ってたよ」
 根も葉もない噂から真実に尾ひれが生えた噂は数あれど、瞳に星を宿しているとは初耳だ。討論会で話せば、目線で焼き付くされるだの、発言も眼力もチクチクするだの。どちらかと言えば攻撃的なこの目は、道を切り開く為の武器でもあった。だから噂話にはいちいち気を留めたことがなかった。
 しかし、このオレの認めた男がいうのだ。普段の自称している観察眼は、とても宛てになるものではないが、妙な例えをするときは的確な答えが返ってくる。たしかに、成歩堂龍ノ介という一人の男を見る目だけは、他のものとは違うのかもしれない。自分の眼なので確かめる術はないが。
 逆に星空のようなのはお前の方だとも言いたい。やけに眩しいその視線に魅了される。心の深くに眠らせたものを呼び覚ます、星よりも強い朝の光のようだ。
「いつからだか忘れてしまったけど、お前の目はとても輝いてる。それなのに同期の奴ら、お前の輝きがまるで見えないみたいに話すのだもの」
 ムカッとしたというか、わからず屋と叫びたかったというか。
 歯切れの悪い言葉を選び並び立てる。人にオレの瞳のきらめきが理解に及ばないことがまず、成歩堂自身理解していないのだろう。他人には見えないきらめきが何故オレの中にみえるのか。
「きっと、お前を見ている時だけなのだろうな」
「ぼくを?」
 小首を傾げて心当たることを探しているようだった。結局合点は行かず、唸りながら視線をうろうろと宙に漂わせる。
「ええと、それはつまり」
「こういうコトだろう」
 よそ見をして油断しきった唇に口付けを一つくれてやった。忙しなかった眼は、今やオレのきらめきに捕らえられた。耳まで赤いのはきっとオレもなのだろう。くらりとするほど耳と頬に熱を帯びる。
「成歩堂」
 オレの星空は、今も輝いているだろうか。

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