けじめをつけてこそ男だと







『あ、彩子…リョータ…』


湘北高校、体育館。練習を終え、いつものように共に帰ろうと集まった三人。なまえはふとその場に立ち止まり二人の名前を呼んだ。


「いいわよ、行きましょう。」

「そうだね、善は急げって言うし。」


彩子、そして宮城はなまえの腕を取り体育館を出る。口元をパクパクさせて魚状態になったなまえに向かって「海南まで走りましょう」と笑うのは彩子だ。


『えっ、なんでわかったの…?』

「そりゃねぇ、リョータ。」

「もちろん、親友ですから。」


なまえの心には引っかかるものがあった。せっかく清田に誘ってもらった海南の学園祭。神の教室へと顔を出しお化け屋敷にチャレンジした後、なまえは彩子たちが待つ場所へと戻るなり「帰る」と一言言い放ったのだった。それにはもちろん神のあの行動が関係しているのだが…


冷静に考えて挨拶ひとつもせずに勝手に帰ってしまったこと。いくら事情があったとはいえ清田に申し訳ないことをしてしまったとそのモヤモヤが心から消えてはくれなかった。どうして帰ったのかと聞かれてしまってはうまく答えられないうえに、神とキスしたこと、それを清田には絶対に知られたくはない…のだが…


『ありがとう、二人とも…』

「お安い御用、ねぇ?アヤちゃん。」

「もちろんよ。」


それでも会いたい。私が会いたいのは清田くん、ただひとり…


『練習終わってるかな…』

「大丈夫だよ、きっと会えるって。」

『ありがとう、リョータ…』















「…信長なら中にいるけど。」


海南大附属高校、体育館前。ばったりと鉢合わせたのはあろうことか神であった。なまえは瞬時に一歩後退りをしてみせる。神はそんな様子を淡々とした表情で見つめていた。


「呼んでこようか?」


珍しい…後ろにいた彩子と宮城は瞬時にそう思った。あの神が…あの神がなまえを前にして「清田を呼んでくる」だなんて自ら口にするとは…


これは何かあったな…もしやあのお化け屋敷でなにか…なまえの様子がおかしくなったのもあの時だったし、怖くて怒って帰るって流れだと思っていたけど…もっと別の何かが…


彩子と宮城、二人の思考は全く同じであった。


『じゃ、じゃあ…呼んで欲しい、です…』

「わかった。」


神はそう言うとくるっと背を向ける。しかしそこで声を上げたのはなまえであった。


『待った、神くん。』


やはりあのままにしてはいけない…なまえは瞬時にそう思った。あのままあのキスをなかったことに…そんなの出来ない。神くんが私にどんな思いでしたのかはわからない。至近距離で目が合えばそういうことをしてしまうのが男女なのかもしれない。恋愛経験が少ない自分には「普通」がわからない。だけど、だけど…


「なに?」

『私…わたし…、清田くんが好きなの。』


だから、だから…


「そんなの、とうの昔から知ってるけど?」

『…えっ、?』

「むしろ知らない人なんていないでしょ、どうしたの?」


神は笑った。あのことをまるで無視してなかったことにして、綺麗な笑みで不自然な程に美しく笑って見せたのだった。


『…う、うん…』

「応援はしないよ、俺だってなまえが好きだから。」

『…えっ、?!』

「でも、用があるなら呼んできてあげる。」


あまりにもあっさりとした告白であった。神の思いを知ったなまえはポカンとした顔を見せる。薄々勘付いてはいた。キスにどんな意味が込められているのか無い頭でも頑張って考えたから。もしかしたら…のそのもしかしたらがどうやら当たったらしい。


『うん、よろしく!』


だがそんなことはもうどうでもよかった。だって神が笑ったから。信長を呼んでくると笑った神の笑顔は穏やかで綺麗で曇りがなくて、なまえの知っている神宗一郎だったから。神がそう言うのなら、神がそう笑うのなら、私もそれに応えるとなまえはそう思ったのだった。


『んあっ、神くん!』

「…なに?」

『嘘ついたでしょ、福ちゃん…呼んでなかったんだってね。』


「友達」として投げかけたその言葉。神はにっこりと笑って「ごめんね」と言った。穏やかな笑みだ。


「そうでもしないと来てくれないかと思ったんだ。」

『そりゃね、お化け屋敷苦手だし。』

「今度はちゃんと三人で会おう。」


神はそう言ってなまえに背を向けた。そして体育館から出てきたのは清田ただひとり。神が姿を現すことはなかった。


「あ、なまえさん…!」

『突然来てごめんね…あの、この間は学園祭に呼んでくれて本当にありがとう。』

「いえ、あの…途中で帰られました…よね、?その、体調が悪かったとか…?」

『今日はそのことを謝りに来て…突然帰ったりして本当にごめんね。せっかく声かけてもらったのに…』


あ、いえ、何もなかったならいいんです


清田は顔を真っ赤にしてブンブンと手を横に振った。申し訳なさそうな顔をするなまえ、わざわざここまで来て直接謝りにくるなまえ、とにかく彼女のその全てが美しく輝いて見えるのだ。


「かき氷食べてもらえて本当に嬉しかったです。その…来てくれて、ありがとうございました…!」

『こちらこそ、招待してくれて本当に嬉しかったよ!』


かき氷が入ってたカップと清田くんがさしてくれたスプーン型のストローはちゃんと洗って家宝としてとってあるんだーとついつい余計なことを口走り「え?」と清田に返されるなまえ。しまった!とワタワタ慌て出す親友の姿を見て彩子と宮城は顔を合わせて笑い合った。


「…しかしまぁ、神もやるわね…」

「ついに言ったね…友達ポジションを選んだってことかな。」







さよなら、恋心

(不衛生なので捨ててくださいね?)
(何言ってるの!捨てられるわけないよ!清田くんがくれたもの全部大切な宝物なんだから…!)
(なまえちゃん、清田引いてるから!)














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