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「おはよ、なまえちゃん。」

『…水戸くん、おはよう…』

「うわっ…ど、どうした…?眠れなかったの…?」


朝教室へと入ってくるなり同じクラスの水戸くんにギョッとした顔をされてしまった。おそらく私の目の下にクマが出来ていることが原因らしいがよほど酷い顔をしていたのか水戸くんの綺麗な顔が歪んでは「大丈夫?」と心配されてしまう。


『水戸くんはさ…彼女いるっけ…?』

「いねぇけど…どうした?」

『どんな女の子が好み?』


おそろく流川くん関連の質問なんだろうと頭のいい彼は考えたようだけれど、質問の意図までは察することが出来なかったらしくしばらく間が空いた後に「清楚な子とか…?」と模範回答のようなことを呟いては私の顔色を伺ってくる。変なことを言って私を傷つけないようにしている彼の心情が見え見えで、本当にいい人すぎる…と朝からそんなことで泣きそうになった。


『清楚で可愛くて…、胸が大きい子?』

「ぶはっ……、わ、わかった、なんとなく……」


何をわかったかなんて聞かなくても私もわかる。水戸くんは困ったように眉を下げて「流川は大丈夫だよ」と私を慰めてくれる。


「世の中の男がみんな胸がデカい子が好きかって言ったら多分そうじゃないと思うし…なんつーか、あれだよ、あの…」


「好きな子ならなんだって平気だよ」と彼は綺麗な顔で笑った。それはまさしく私の胸が小さいことを否定しない言葉であり、なんだか悲しくなる。まぁここで水戸くんに「なまえちゃん胸小さくねぇじゃん」と言われたところで「どこ見てんの!」とキレる自分が想像つくし、そもそもこんなことをいくら心を許せるとはいえ男の子の彼に相談した私に非がある。こんな際どい話題にも当たり障りない言葉を選び私を勇気付けようとまでしてくれた水戸くんには感謝しなきゃなぁ……


『ありがとう……少しだけ勇気出た……』

「少しだけか…ま、俺にはそれぐらいしか出来ねぇしなぁ…」


「あとは流川に任せるよ」と笑った水戸くん。本当に紳士で彼に彼女がいないことがおかしいと心底そう思った。












『部活休みなの?』

「…体育館の点検、あと休養。」

『珍しい…!』


休み時間になるなり流川くんがやって来てそう話をしてくれる。ここに桜木くんがいたらわちゃわちゃと喧嘩が始まるところだけれど、生憎「ハルコさ〜ん」と教室を出ていったばかりで不在だった。流川くんは続けて「一緒に帰ろう」と誘ってくる。


しかし、だ。そんなに早く帰ってしまっては、「俺ん家来い」とかなんとか流れでそうなって……それはまずい!そんなことがあってはたまったもんじゃない!


『あ、あの…テ、テストも近いことですし…学校で勉強していくっていうのは…』


流川くんはそう言った私をジッと見ては少し間を開けて「わかった」と呟いた。ホッと肩を撫で下ろし放課後彼が私の教室まで迎えにくるという約束をかわして流川くんは「また」と廊下へと出ていった。


『助かった……』


そんな様子を困ったように眉を下げて水戸くんが見ていたとは気が付かない私であった。













『ここがね、こうなってー…』

「…むずい。」


仏頂面でテキストにむかう流川くん。私の解説もそこそこわかりづらいのだろうな…と思いながらもなんとか赤点を逃れるために二人で必死になる。流川くんがバスケやれなくなるなんてそんなのは絶対にダメだ。


『頑張って赤点逃れよう。追試になったら大変だから。』

「…なまえ、」

『うん?』


ずっとテキストに向けていた目をあげて横を見上げれば流川くんとぱっちり目が合う。彼は少しだけ嬉しそうな顔をしながら「サンキュ」と呟いた。


「嬉しいと思った、なまえが俺の為に…」

『当たり前だよ!流川くんの為なら、なんだって…!』


そう言いかけてチュッと唇に柔らかいものが触れる。ここが図書室だということを思い出し慌てて周りを見渡すもこちらを見ている人は誰もいなかった。


『ちょ、ちょっと…!』

「いーだろ、減るモンじゃねーし…」


流川くんはそう言ってふいっと顔を逸らした。なんだか途端に愛おしく思えて、自分自身彼ともっと深く愛し合いたい気持ちがあるものの、それが出来ずにいる今という状況がもどかしくて仕方がない。


「わかんねー、ここ…」

『あ、うん。ここね…どれどれ…』













『随分頑張ったね…もう真っ暗じゃん…』


辺りを見渡せば他の生徒は誰もおらず窓から見える外も暗くなっていた。流川くんは「帰るか」と立ち上がり慌てて片付けをして彼に倣って立ち上がる。しかし長時間座っていた為かフラッと頭の中が揺れる感覚がして気づいた時には流川くんに受け止められていた。


『ご、ごめっ…目眩がして…』

「大丈夫か?」


触れる肌と肌、覗かれる顔、真剣な流川くんの瞳。吸い込まれるようにして唇が触れ合って、周りに誰もいないのをいいことにそれはより深いものに変わっていく。隙を見せれば流川くんの舌が口内へと侵入してきては強引に絡められて息をする暇もない。


『…んっ、ハァッ……』

「息しろ、どあほ…」


かすれた色っぽい流川くんの声にキュンと胸が苦しくなる。再び舌を絡められた頃には彼の手は私のお腹あたりを触っていてそれは徐々に上へと上がってくるのだった。


胸に差し掛かるあたりで反射的に体が反応し彼の胸板を押すもののビクともしない。流川くんの手のひらが完全に私の胸に触れて優しくふわふわと揉み始めた途端、全身がカッと熱くなって体全身を使って無理やり彼から離れた。


『………っ、』

「………」


距離ができ流川くんと目が合う。彼は眉間にシワを寄せて信じられないものでも見るかのような凍った怖い表情をしていた。


『あ、あの…ご、ごめん…』


なんと言ったらいいのかわからなくて混乱する私に流川くんは「オメェ…」と口を開く。


「なんで俺を避ける…?」

『あ、そうじゃなくて…その…』

「…俺のこと、嫌いか?」


完全に誤解されたようだった。無理もない。あんなに無理矢理引き離れたら普通ならそう思う。


『違う、でも…』

「俺はなまえが好きだ、だから触りたい。」


ストレートに伝えられてボボッと顔が熱くなる。ドクドクとうるさい心臓。私の頭の中には今朝の水戸くんの言葉がリピートされて「好きな子ならなんだって平気だよ」というあの天使のような言葉がそっと背中を押してくれた。


『私も、流川くんのこと、大好き…』

「じゃ、何がダメなんだ…?」


俺が怖いか?


そう問われて首を横に振る。


『む、胸が……』


私は全てを打ち明けた。







一歩勇気を踏み出してみる


(…俺ん家、来い)
(い、今から…?!)
















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