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『どうだった?練習…』

「…ん、まぁまぁ。」

『そっか…』


ようやく慣れてきた。この学校中の人気者、親衛隊という名のファンクラブまで存在する流川楓くんの隣を並んで歩くことに…


少し前までは一緒に帰ることに誘われること自体心臓がバクバクする案件だったし、大人しく待っている間にもソワソワと落ち着かず「勉強しながら待ってる」と言いながらもちっとも問題が頭に入ってきやしなかった。そもそもどうして彼に告白され選ばれたのが私なんだろう…と多分永遠に解決しない疑問があるのだけれど、それを気にし出したら一生が終わってしまうので考えないようにしている。


「…髪型、変わった。」

『あっ…う、うん…伸びてきたから…』


久しぶりにしたポニーテールに優しく触れた流川くんは私の髪をくるくると少しだけ回すと「似合ってる」と一言だけ言ってくれた。


『あ、ありがとう…』


彼の突然のこういったセリフや口数が少なく静かに帰る帰り道など、ようやく自分自身が対応できるようになってきたのだ。流川くんは本当に楽しいのかな…つまらなそうだな…と静かに帰る帰り道に悩んでいたこともあったけれど、そもそも彼自身がよく話すタイプの人間ではない上に以前何気ない会話で「なまえの隣は居心地がいい」と言っていたからそれでいいのだと思うようになった。


『流川くんも、少し髪の毛伸びたね。』

「ん…目に刺さる。」

『意外とパッツンとかも…可愛いのかもなぁ。」

「…?」


想像しては彼ならやっぱりなんだって似合いそうだと納得していれば彼は不思議そうな顔をして少しだけ首を傾けていた。流川くんは元の顔が良い上に時たまこうして見せる彼にとっては自然な仕草がやけに母性本能をくすぐってくるのだから困ったものだ。この世で一番恐ろしいものは無自覚だとつくづく思う。


「…髪、切るなよ。」

『あれ、流川くんはロングヘアが好みなの?』

「そうじゃねーけど…なまえ似合ってる。」


「この、ふわふわしたやつ」と言って再びポニーテールに触れる流川くん。どうやら今日のこの髪型を気に入ってくれたらしく彼は男子特有の揺れるものが好きな人なのかもしれないと新たな情報を得た。なるほどなぁ…朝時間があったから少し髪を巻いてからのポニーテールにしてよかった。こんなに気に入ってもらえるとは…


にしたって、髪に触れられただけでトクンと胸が熱くなるのだから私は相当彼のことが好きらしい。そりゃかっこいいにも程があるほどの人だし当たり前なのだけど…


でも最近は彼を好きすぎて、また新たな問題が生じてきて…


『送ってくれてありがとう。』

「ん…、なまえ…」


家の前へと着くなり流川くんに名前を呼ばれて顎をクイッと上へあげられる。彼の切れ長の瞳と目が合うなり吸い込まれそうな感覚に陥り端正な顔立ちが近づくと共に唇にフワッと柔らかい感触が。それが流川くんからの甘い口づけだということはわかっているし、次第に深く求められるようなキスに変わっていくことにときめいている自分もいる。ついていくのに必死だけれど…


『…っ、ハァッ、……』

「、息止めんなって…」

『ごめん…な、慣れなくて…』


ふぅ…と深く息を吐くなり流川くんの左手は私の頬に優しく触れる。瞳の奥をゆらゆらと揺らした彼が再び私に近づくと同時にガチャッと玄関が開き慌てて距離をとった。


「新聞取り忘れてたわー……あれ?なまえ?」

『あ、お母さん。ただいま…』

「おかえりなさい、あら!流川くん!」

「こんばんは…」


超絶面食いの母は流川くんを見るなり「うちでご飯食べていく〜?」と目をキラキラさせる。彼を容易に家へあげようとする母…困ったものだ…


『い、いいよ!お母さんご飯作って待ってるだろうし…!そんな急に誘われても、流川くん断りづらいじゃん!』

「あら、そう?じゃあまた今度、ゆっくり来てくれる?」

「…うす、そうします…」


いとも簡単に家へと誘う母を玄関から家の中へと押しやりながら「また明日ね」と流川くんに微笑んで共に入り扉を閉める。バタンと音が鳴り、流川くんが見えなくなったところでヘナヘナと床に座り込めば母は不思議そうな顔をして「どうしたの?ご飯食べなさい?」と言ってからリビングへと入っていった。


『…無理だぁ、どうしよう…』


あまりに強引に母の誘いを無かったことにしたから、変に思われていないだろうか…あからさまに避けていると知らぬ間に彼を傷つけてはいないだろうか…


そもそも、つい先日彼の家に誘われた時も用事が出来たと白々しく断ってしまったし…密室で二人きりになるというシチュエーションをものの見事に避けては回避していることにそろそろ彼が気づいてもおかしくはなかった。











ご飯を食べてゆっくりしてからお風呂へと向かった。鏡の前で何も身につけていない裸の姿になるなりハァとため息が漏れガックリと項垂れる。


『こんなんじゃ…流川くんに呆れられるよなぁ…』


高校一年生とは、男女共にまだまだ成長期であり、これから背が伸びたりホルモンの動きがさらに活発になったりと忙しい時期であることは確かだ。しかし、だ。こうやって裸になっても、制服姿でも体操着姿でも、私の胸は明らかに小さい。それは周りと比べて中学時代からの自分のコンプレックスであり、どう見ても男の人が好きそうなボンキュッボンで表されるような体型とは程遠いものであった。


最近は触れるだけのキスから進展し、先程のように深く求められるようになってきた。そのうち密室で二人になれば、もちろん恋人同士だしそのようなことになる予測はついている。でもそれが本当に怖くて、既に彼に胸が小さいことは気づかれているのかもしれないけれど、いざこの裸を大好きな彼に見せるとなると、恥ずかしさと情けなさでどうにもこうにも前に進めない自分がいた。


揉まれれば大きくなるなんて噂も聞いたことがあるし、もしかしたら大好きな流川くんにそういうことをされれば、予想もつかないような変化を遂げる可能性もあるのかもしれない。けれども、何かを始めるというのには本当に勇気が必要で、自分一人の問題ではなく、しかも「大好きな流川くん」が関わっていることならば、慎重になってしまうのは致し方ないことなのだった。


『どうにか、ならないですかね…神様…』


あまりに色気と程遠い体型にため息しか出なくてお風呂に浸かる。同じクラスのあの子や隣のクラスのあの子もどう見たってボンッと胸が出ていてとても色っぽい体型をしているのだ。同じ年に生まれながらどうしてこうも違うかなぁ…と嘆いたってどうにもならないことに頭を悩ませる。


『このままキス止まりってわけにも、いかないしなぁ…』


抱かせてくれない彼女だなんて、そんなの嫌だろうな…いつか流川くんにポイッと捨てられたらどうしよう…だからといって、この体型を彼に晒すのか…?


『…どうしたらいいの……』












乙女に悩みはつきものなのです


(流川くん、すごい男らしい体なんだろうな…)
(…うわっ、何考えてんだ、私の馬鹿!!)









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