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「清田」

「はい、牧さん!」


練習前、呼ばれた清田は急いで牧の元へと駆け寄った。何の話かと見えない尻尾をブンブン振る清田に「下の名はなんだったか…」と呟く牧。


「えっ…俺っすか…?」

「違う、お前のクラスのみょうじだ。」

「あぁ、みょうじっすね。えぇっと…なまえだったかな…?」


いつも名字で呼ぶんでパッと出てこないっすね、と笑う清田に「みょうじなまえか」と呟く牧。


「でもまさか藤真と繋がってるとは予想ができなかったです。」

「いつも一緒にいるイメージだったんだ。藤真の後を常に追っているような…」

「へぇ…幼馴染って言ってましたもんね。」


牧の言葉を深くは考えず軽く流す清田。牧の言うことならなんだって肯定し「その通りです」となってしまう清田。なまえを気にかける牧の心の内など考えることもない。










練習を終えるなり牧は清田とスリーポイントを終えた神と共に帰路へとつく。三人で帰ることはさほど珍しくなく一番初めに四つ角で別れたのは神だった。清田と二人になるなり相変わらずベラベラと喋り倒す清田に返事をするのが自分ひとりになった牧は適当に相槌を打ちながら、頭の中にはひとりの女が存在していた。


そしてちょうど目の前に現れたのは自分たちと同じように部活帰りの緑色の鞄を抱えた双璧と呼ばれる相方であり、その隣には今まさに自分の頭の中を支配していた女が並んで立っているのだから途端に牧の心の中はドロドロとした黒いものに覆われるのだった。


「…あれ、牧?」


その声に真っ先に反応したのは清田だった。


「藤真…あぁ!みょうじ!」

『清田くん…、こんばんは…』


ペコッと牧に向かって頭を下げるなまえ。隣に立つ藤真が「珍しいな、こんなところで会うなんて」と笑って話しかけてくるものの笑い返す気になんて到底なれない牧は「おう」とだけ返事をしなまえをジッと見つめた。目が合うなりおどおどとしながら、次第に反応に困ったのか藤真の後ろへ体を半分隠してしまう。牧は無表情で藤真を見つめる。


「藤真、今日はあの綺麗な彼女は一緒じゃないんだな。」


牧のその一言になまえはあからさまに反応した。ピクッと肩をびくつかせて藤真の後ろで下を向いている姿を見るなり牧は少しだけ口角を上げた。


「あ、あぁ…今日は一緒じゃないんだ。」

「へぇ、美人な彼女がいるんすね……」

「あぁ。きっとビックリするぞ。」

「そんなにっすか…?」


清田はへぇ…と呟いて藤真を見やる。確かにどこからどう見たって「男前」でとても綺麗な顔をした藤真。女子人気が高いことだってもちろん周知の事実だし高校生男子として彼女がいることなどなんらおかしいことではない。ましてや自分の尊敬する先輩が「ビックリするくらい綺麗な彼女」と言うのだから相当美人なんだろうとそう確信を持った。羨ましい以外のなにものでもないが自分にはバスケがあるんだと何故だか強がる気持ちもある。


牧は完全になまえの反応を楽しんでいた。それはまさしく藤真を好きだと言っているようなもので、あからさまに落ち込むような様子を見せるなまえに視線を向けるものの彼女の目の前にいる藤真が「それじゃ、俺ら帰るから」と牧となまえの間でそう呟いた。


「…みょうじ、」

『…は、はい…』

「また、学校でな。」


牧はそう言って笑った。なまえは少しだけ構えたような表情で「はい、また…」と呟く。暗闇に消えていく藤真と肩を並べたなまえ。その後ろ姿を見えなくなるまで見つめては隣にいる清田に「牧さん?帰んないんすか?」と問われる。


「あぁ、帰ろう。」

「藤真と彼女さんってどっちのが顔綺麗なんすか?」

「それはまぁ…彼女の方だろう。藤真は綺麗だけど男だしな。」

「それもそうっすね…にしても、美形には美形が寄ってくるってか…」


清田の脳内は終始藤真とその彼女の話題でいっぱいだった。それに比べて牧の脳内は明日から彼女にどう話しかけようかそんなことでいっぱいであった。清田の話し声が右から左へと流れていく。


「それじゃ、牧さん失礼します。」

「おう。おやすみ。」

「おやすみなさい!」














「よう、清田。」

「あ、牧さん!」


自分の登場により「出た!清田の飼い主、帝王!」と騒ぎ始める教室内。なんだそれ…と苦笑いが漏れるもののあまりに嬉しそうな清田を見るなりそう言われてしまうのも無理がないのかとため息をつく。「どうしたんすか?」と見えない尻尾がブンブン振られている。


「今日は体育館が使えないらしい。外周メインで行うから一年に伝えておけ。」

「あ、はい!わかりました!」


返事をする従順な清田の後ろに友達と楽しそうに話しをしているなまえを見つけ牧は何の遠慮もなしになまえの名前を呼んだ。


「みょうじ。」

『…あ、牧さん…』

「少し、いいか?」


珍しく清田以外にも用があったのかとクラス内の注目の的となっている牧。そんな彼に呼ばれたなまえは清田と仲が良いことでも有名なのでそれ繋がりかと周りのみんなは特になにも気にしない。呼ばれて教室の入り口へとやってきたなまえは牧を見上げるなりなんでしょうか…と問う。清田も同じように目を丸くして牧を見つめていた。


「清田、もう行っていいぞ。」

「あ、は…はいっ……」


なまえに単体で用事があるのだとわかった清田は大人しく自分の席へと戻る。それを確認するなり不思議そうな顔をするなまえに対して牧は口を開いた。


「今日練習が早く終わるんだ。よかったら帰り一緒に帰らないか?」

『えっ…、私と牧さんが…ですか…?』


突然何の話だと固まったなまえは「あ、清田くんも一緒ってこと…?」と続けて呟く。しかし牧の「いや二人でだ」という返答に再び固まり「私に何か用ですか…?」と問う。


「用というか…、話したいと思ったんだ。」

『私と…話を…?』

「あぁ。ゆっくり話せる時間があればいいなと思っていたところだ。」


やっぱり驚くのだけれど、藤真という共通の知り合いもいるわけで。海南の有名人からのお誘いを断る理由も見つからずなまえは「わかりました」とそう言って了承した。


「待っていてくれ。そう時間はかからない。」

『はい…教室で自習しながら待ってます…』


その返答を聞き牧は満足そうに笑って自身の教室へと戻る。何を話していたのか気になって仕方ない清田は「何の話だった?!」となまえに寄ってくるのだった。










謎のアプローチ


(ううん、なんでもなかった)
(あぁー藤真のこととか?)
(そう、そんな感じだよ)











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