結婚式編
「…すげぇ、」
『何、すげぇって…なんかもっとないの?』
「綺麗すぎて…なんて言ったらいいかわかんねーんだよ」
ドレスを見に纏い自分の前に現れたなまえ。それを見た流川は目を見開いて固まり、うまくまとまらない自分の心を整理するのに必死であった。「美しい」「綺麗」ありきたりではあるがその二言しか出てこない自分の正直な気持ち。だってこんなに綺麗な人今まで見たことねーんだから仕方ねーだろと流川は自分に言い訳していた。
純白のウエディングドレスに身を包んだなまえは長い髪を綺麗にアップしていて今日は眼鏡も外しコンタクトレンズを着用している。普段は前髪がおり目にかかるくらい長い流川の髪型もこの日のためにスッキリと散髪した上に綺麗に整えられ前髪は上へと上がっていてその綺麗な顔立ちが全面に押し出されなまえはなまえでそんな流川にドキドキが止まらないのだが…
「やべ…なんか……」
『え、なに?』
「抱きてぇ ……」
予想外の一言に「えっ?!」と顔を真っ赤に染めて言うなまえ。肩も全面に出して細い腕がハッキリと見えて胸のあたりについつい視線がいってしまう流川。露出の多いその肌全部に俺のもんだって赤い印でもつけてやろうかと流川はなまえに近寄った。
「ここらへんが…」
なまえの首筋や肩に触れて流川は呟く。「やめて…」と擽ったいのかギュッと目を閉じてなまえは怒っている。そんな彼女の白い肌全てに一通りキスを落とそうと流川がそう思った時だ。
コンコンコンと控え室の扉が叩かれてなまえはスッとその場を離れて「はーい」と返事をしながら扉へと歩いていく。
「…クソ、邪魔者め」
なまえの父さんと母さんだったら今の邪魔者発言は無しで。
流川は心でそう呟き扉を見る。「失礼します…」と声がしてからゾロゾロと見慣れた大きな男たちが入ってきて流川はギョッとした。
「なまえさんっ…、ご、ご結婚、おめでとうございます…!」
『桜木くん、久しぶりだね。どうもありがとう。』
赤頭を筆頭に入ってきたのはいつかのチームメイトたちで。中には深々と頭を下げてなまえに挨拶している赤木や木暮もいるのだけれど…何故だか紛れて海南の清田や共にアメリカでプレーする沢北までいるではないか。流川の口からはため息と舌打ちがほぼ同時に漏れた。
「い、いやぁ〜お綺麗ですね…!」
『ハハッ、ありがとう。すごく嬉しい。』
ニコニコと笑うなまえに見惚れてポワッと頭みたいな赤色に頬を染める桜木花道。そしてその後ろには「うわぁ…」と呟きながらなまえに見惚れる清田と沢北がいるわけだ。
なんなんだあのデレデレしたニヤケ顔は……
「結婚おめでとう。俺が言うのも変だけど…流川のことよろしくね。」
『はい。ありがとうございます。』
宮城や三井がなまえと話している間も桜木、清田、沢北の三人は遠巻きになまえを眺めてはニヤニヤと笑っている。そりゃ確かになまえはめちゃくちゃに可愛い。高校時代からさらに綺麗になったなまえ。その上にウエディングドレスときたら、もはや無敵であった。しかしこんなにあからさまにニヤニヤと見つめられてしまうと面白くない。流川は不機嫌オーラ全開で三人の元へと近づく。
「…どあほう共、帰れ」
「ぬあっ?!んだよキツネ!久しぶりに会ったってのに帰れとはなんだ!」
「そうだそうだ!帰れってなんだ!」
「そうだぞ!つーか仮にも俺先輩だろ!」
ギャーギャー騒ぐ三人に盛大な舌打ちをする流川。皆との挨拶を一通り終えたなまえの元に三人揃って駆けていき、「なまえさん!」と桜木は声をかける。
『おわっ……あ、ど、どうも……』
清田と沢北にペコペコと頭を下げるなまえ。三人は近くで見ると余計に美しいなまえに完全に鼻の下を伸ばし「綺麗っすね…」だなんてボソボソと呟いている。
『あ、あの……っ?』
「本当にあんな無愛想と結婚しちゃうんですか?もったいねぇなぁ……」
沢北がそう呟けば隣の清田が「そうっすよ!」と激しく同意する意志を見せ「バスケしか頭にない男なんてつまんないでしょう」と主張している。
『いや、そんなことは……』
とうとう我慢ならなくなった流川が舌打ちをやめずに近付いた時だ。突然現れた女が清田の耳たぶを思いっきり引っ張ると「信長」と低い声で呟く。散々鼻の下を伸ばしていた清田は途端に「ヒィッ」と声を上げて後ろの方へと引きずられていった。
「…行くよ、信長」
そのまま扉を開けて控え室から出て行った二人。何が起こったのかわからずポカンとするなまえ。流川は「俺が行かなくともあの子が来てたか…」と口角を上げながらその様子を見ていた。その女こそ高校時代からの清田の彼女で、何かと流川に絡んでくる自称親衛隊だとかなんとか。今もなお付き合いが続いていたらしい二人に少しだけ嬉しさを感じつつなまえへと視線を戻す。続いてはズカズカと近付いてきた女の子に全然笑っていない笑顔で「エイジ…」と微笑まれ「はい…」と返事をしながらその場を離れる沢北がいた。確か沢北も結婚する予定だとかそんなことを言っていたような気がする。
「もう、桜木くん!なまえちゃんが困ってるわ!」
「あ、ハ…ハルコさん…す、すみませんっ…」
「ごめんね」と謝る晴子になまえは「大丈夫だよ」と返す。同じ学年ということもあり面識のあるなまえと晴子。なまえはつい最近桜木と晴子が付き合い始めたと聞かされ「うわぁ!」と驚いて拍手していた。
『おめでとう…桜木くん…!』
「あ、ありがとうございますっ…なまえさんっ…」
桜木は「やっと思いが通じたんすよ…」となまえの両手を掴み感動を分かち合っている。完全に面白くない流川がズカズカと近付いたところで二人は気付かない。
「…人の嫁に触んな」
「もう!桜木くん!」
なまえの手を掴んで離さない目をキラキラさせた桜木に手を伸ばしたのは流川と晴子で、二人は全く同じタイミングであった。パシッと二人から手を離すよう叩かれた桜木は我に返りハッとする。晴子が顔を赤く染めながら「る、流川くん…」と呟くからだ。
「…あぁーっ!何すかハルコさん、その顔は……!」
自分はなまえに見惚れてたくせに…との流川の呟きは届かず桜木は目がハートになりつつある晴子の腕を引いて急いで控え室を出て行った。
『…なんだったんだろう、』
「気安く触らせんなってんだ」
『あ、ごめん……』
えへへと笑うなまえはやっぱり可愛くて流川の口からは自然とため息が漏れた。怒る気にもならない。
「 それでは、誓いのキスを …… 」
なまえと向かい合うなり流川は思う。さっきから散々男たちの視線が刺さり、正直かなり鬱陶しい。それは自分にではなくなまえに向けられるものであって、やはりなまえがめちゃくちゃに可愛いことが原因なのだけれど。もうこうなったら……
「なまえ…っ」
『…んっ…!』
会場内が騒がしくなる。流川のあまりに情熱的な誓いのキスに男たちは「うおぉ!」と声を上げて、そして何故だか晴子を筆頭に女性陣は「キャー!」と悲鳴を上げるのであった。
「やだぁぁあ!見たくなかった……」
「おい、なんでお前がショック受けてんだよ。」
「だって無理じゃん、あんなの…皆の流川くんなのに…」
「今まさになまえちゃんのものになってるところだわ。」
わりと本気でショックを受けたのは信長の彼女でしばらく目に焼き付いて離れない流川の荒っぽいキスに「アァァ!」と頭を抱えていた。ちなみに晴子は魂が飛んでいき抜け殻状態となり桜木に心配されたという。
『も、もうっ…楓くんっ…!』
「いーだろ、あんくらい見せつけておかねぇと」
流川はニッと笑った。その顔はやっぱり綺麗で格好良くてなまえは顔を真っ赤にさせながらも「もう…」と結局許してしまうのであった。
『馬鹿…』
「もう一回するか?」
『し、しないよっ…』
仲良さそうに話す壇上の二人を見て三井と宮城は口を開いた。
「アイツ、本当に表情豊かになったよなぁ…」
「高校の時からじゃ考えられないっすよね。」
高校時代から色々な場面で人間離れしていた流川。どんなに女にモテようがまるで人ごとのように扱い知らんぷりであった。あの子のこととなると途端に普通の男になるのは知ってはいたけれど…それにしても幸せそうな顔した流川を見るなり感慨深いものがある。
「幸せそうだな…」
「そうっすね…なんか流川の兄貴にでもなった気分ですよ、俺…」
「宮城、俺もだ…」
世話の焼ける弟の祝いの席にやってきた兄のような、そんな気分に浸りながら三井と宮城は穏やかな顔で幸せそうな二人を眺めていたのだった。
Happy wedding!(...ハルコさん、ハルコさんっ…!)
(ダメだわ…あんなものを見せられて私はもう…)
(ハルコさん…流川のことやっぱり好きなんすね…)
(あ、ち、違うの桜木くんっ……!)
※信長の彼女は清田信長生誕祭「負けるが勝ち」のヒロインちゃんをイメージしてます。
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