悪夢編


※ 二万打リク 「君の隣、希う」 続編










「なまえ....可愛い、っ........」


大学に入るなり互いの部屋を行き来する生活になった俺となまえは順調に交際を続けていた。高校の頃こそ好きすぎて容易に手を出すことなど出来なかったけれど、制服を卒業し、互いに東京で一人暮らしを始めたこの解放感が俺の背中を後押しして、泊まりとなればちょうど今みたいに、我を忘れてなまえをドロドロに愛してしまうのだった。


『健司くん......、』


何度抱いても抱きたりなくて、最近では顔を見ただけでもすぐに手を出したくなってしまう俺は相当重症らしい。大学も三年になろうとしているけれど基本バスケット以外はなまえのことばかり考えているし、彼女もまたそうだったらいいなぁと思うのだが......


「....ごめん、また.....無茶しすぎたな......」


自分が果てるまでの間、我を忘れすぎたらしい。行為が終わればぐったりと横たわり息を荒くしたなまえが肩で呼吸しながらも目を閉じている。日頃からなまえは行為が終わった途端ぐったりとベッドに倒れ込むことが多く、ゆっくりとイチャイチャしたい俺と違ってそのまま眠りについてしまうのもいつものパターンなのだけれど。今日はさすがに激しすぎたかな...と彼女の呼吸の荒さを見てそう思った俺が、なまえの綺麗な白い肌にブランケットをかけてその場に立ち上がった。


「シャワー、行ってくる。」


なまえからは何の返答もなく既に眠ってしまったのかもしれない。今果てたばかりだし、ただ目を閉じて荒い呼吸をしているだけだっていうのに、そんななまえの姿にすら簡単に反応してしまう俺は熱を冷ます為にシャワーへと駆け込んだ。


「.....マジで頭おかしいんじゃねぇかな......」


好きすぎて、もうどうにかなってしまいそうだ。その理由のひとつに、彼女が以前から得意としていた「絵」が関係しているのは間違いなくて。先日のコンクールでは見事に最優秀賞をゲットして大阪のでかい美術館に堂々となまえの絵が飾られていた。一緒に見に行った時はなんとも言えない幸福感に包まれて、「やったなぁ....!」なんて自分のこと以上に喜んだりもした。それは間違いなく俺の本心だしなまえが絵でどんどん有名になっていくことは恋人として誇らしいことでもある。けれどもその反面、どうしても手の届かない存在になっていくことが怖くて、それが彼女をあんなに疲れさせるまで抱いてしまうことに繋がっているのだった。


どうか俺だけのものでいてほしい。


シャワーを浴びて下着一枚で部屋に戻れば、先ほどよりも随分と静かになったなまえが可愛らしい寝顔ですやすやと眠っていた。スースーと静かな呼吸音だけが響き、今なまえが眠っている俺のこの部屋に潤いが取り戻されたような、そんな感覚だ。


「....好きだよ、なまえ......」


頭を撫でて隣に横たわる。どうかいつまでも俺の隣にいてほしい。彼女を包み込むようにして目を閉じれば簡単に意識を手放してしまった。
















目が覚めたらそこにはなまえがいて、あろうことか下着姿でメイクもバッチリ、髪の毛もふわふわ巻いていて、普段よりだいぶ気合いが入った様子だった。あまりの色気に容易に胸が高鳴り手を伸ばそうとするものの体がびくともしなくて動くことができない。


「....な、なんだこれ....?」


そんななまえは俺の方なんて見向きもせずにどこかに向かって微笑みかけている。その目線の先を見れば、そこには一人の男が立っていて、あろうことかなまえに手を伸ばすとそのまま抱き寄せたではないか。


「...お、おいっ!なまえ!!」


体がちっとも動かなくて、どれだけ声をあげてもなまえが俺の方を向くことなんてなかった。二人は一旦離れると見つめ合い、惹かれ合うようにしてみるみるうちに距離を縮めていくではないか。


「おいっ!なまえ!何してんだよ!!」


そしてハッキリと俺の目に映る男の顔。


「....南?!」


見覚えのあるその顔は、いつかのインターハイで俺に肘打ちしてきた男で。なまえには俺の声なんて届きやしないっていうのに、南は一瞬俺を見るとニヤッと笑い見せつけるようにしてそのままなまえに唇を重ねてしまった。


「やめろ!おい!南....っ!!」


重なった唇は俺の目の前でどんどんと深いものに変わっていき、次第になまえの甘い吐息が漏れ始める。いつも俺が聞いている、いや、俺しか聞いていないその甘ったるい可愛い声に南は興奮するように激しく舌を絡めて「なまえ...」と俺の女の名前を軽々しく呼んでは再び唇を重ねている。


『南くん....』

「....やめろっ....、やめてくれ.....!!」


圧倒的絶望感の中、南はなまえの首筋へと舌を這わせ、手は彼女の胸の膨らみへと差し掛かる。次第に二人はその場に倒れ込み、なまえの上に南が乗る形で完全に俺を無視して行為を始めてしまった。


「おいっ....、やめろよ.....!南......!!」

『南くん....、恥ずかしい......』

「可愛いから隠すな、なまえ......」


なまえはされるがままで、南に完全に気を許し普段の俺相手のようにドロドロに愛されている。身に付けていた下着はアイツの手によって剥ぎ取られなまえの体を覆うものはもはや何もない。胸を揉まれて艶っぽく鳴くなまえと人の女で完全に興奮している南の行為の一部始終を全て見せられているこの今という時間は....一体......


「俺が、何したっていうんだよ......!」


どれだけ暴れてもなまえが俺を向くことなどないし、この手が二人を引き裂くこともない。


「やめろ、やめてくれ....!」


なまえも、俺だけを愛してくれてるんじゃなかったのか....?


「やめてくれ.......もう、いいだろ.......」



















「......ッハァ、ハァ......ッ、ハァ.......」


目が覚めれば、そこは見慣れた天井だった。


「......、ッハァ........、」


荒い呼吸、汗びっしょりの体、瞬きすらできない瞳。


ゆっくりと視線を横に向ければ、そこにはスヤスヤと眠るなまえがいた。俺のかけたブランケットを体に纏い、丸まるようにして静かに眠っている。


「.......夢、だったのか.......?」


ゆっくりと息を吐きながら、あまりにもリアルすぎて恐ろしい夢を見たのだと、脳がそう認識した。なまえに向かって手を伸ばせば、夢とは違い体は動き、俺の手に簡単に彼女の髪の毛が触れて、優しく頭を撫でることも許された。


『....健司....くん、.........』


うーん...とモゾモゾ動きながら寝言なのかそう呟いたなまえ。彼女の口から出た名前がアイツではなく俺だったことに心底ホッとして、不意にポロポロと涙が溢れてきた。


「......よかった、夢で.........」


ベッドから起き上がり冷蔵庫からペットボトルの水を取り出す。がぶ飲みしてふぅ...と息を吐けば少しだけ汗も引っ込み心が落ち着いた。そして思う。今のあの夢は一体なんだったんだろうと。


「どうして、南が......?」


確かにアイツは俺にとってはライバルのようなものであったけれど、でもどうして....なまえと南の間に交流があるようには思えないし、俺が二人の関係を恐れているってわけでもない。


「.....いちいち人の夢に出てくんじゃねぇよ.....」


今となっては過去の人物となった南に舌打ちが止まらない。いくら夢とはいえ、あんなにリアルになまえに口づけ、あろうことか彼女の体を舐め回し、なまえ...と囁き、挿入一歩手前の前戯まで全て見せられたのだから。


「会ったらただじゃおかねぇぞ........」


それこそ今度は俺が肘打ちなんてもんじゃ済まないレベルのものを食らわせてやる。二度と歩けないくらいには潰してやる。


『.....んっ、.........けんじ、くん.......?』

「.....あぁ、おはよう。」


ぼうっとした目を擦りながら「おはよ...」と返してくれたなまえのかすれた声が色っぽくて俺は慌ててベッドに駆け寄り抱きしめた。


『うわっ....、どうしたの.....?』

「俺のなまえ....マジで俺だけのなまえ......」

『へっ....?』


もはや語彙力がない俺の呟きに不思議な顔して「どうしたの?」と問うなまえ。例えこれが不吉な未来を表しているとしても、好きすぎておかしくなった俺が見た悪夢だったとしても、俺は絶対になまえを手離したりしないと彼女の唇を乱暴に奪いながら、そう誓うのであった。










正夢になんてさせない


(ちょっ、けんじくっ.....)
(無理、抱く)
(ちょっと待っ....、けんじくんっ........)










Modoru Main Susumu
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -