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俺と神が入場したあたりで一旦入場制限がかけられた。ゴールデンウィークのどこかのテーマパークかよ...ともはや独り言が止まらない俺に神はクスクスと笑っている。


中に入れば見たことある絵も初見の絵も、ずらりと綺麗に並んでおり、そのひとつひとつに魂のようなものを感じて胸が熱くなった。なまえの描く絵はいつだってきめ細やかで鮮やかなのにどこか大胆で容易に人の心を奪っていく。見る人見る人全員が「うわぁ....」と声を上げては固まって絵を見つめている。あぁ、すげぇよ...こんなに大勢の人を一瞬で虜にするなまえの絵は、やっぱりすげぇんだわ.....


ひとつひとつ噛み締めるようにしてまわる俺。時たま「どれが三億の絵かな?」と興奮気味の声が聞こえたりして、その度に鈍器で頭を殴られたような感覚に陥る。あぁ、もう!三億三億ってうるせぇんだよ!


いつの間にか神とは逸れていて、そろそろ登壇の時間だとフロアへ足を運べば既に客で溢れかえっていた。立ち見になるのは仕方がないと後ろの方で立つ俺の目の前をスッと通った男。


「、.......南?」


それが、いつか俺に肘鉄を食らわせて病院送りにしたアイツで、はたまた少し前に俺の夢に出てきては俺のなまえをドロドロに抱いていた南であることに気付いてしまった。いや、でも、どうして.....。


俺が不意に出した声に「?」と言いたげな顔で振り向いた南。


俺と目が合うなり少しだけ目を見開いて「お、」と呟いた。通り過ぎていった俺の元へと戻るなり隣に並んでくる。


「...藤真やんか。」

「あ、あぁ。久しぶり、だな......。」


警戒してしまう俺の言葉に「おん」と呟いた南はジッとなまえが立つ予定のステージを見つめている。まだそこに彼女の姿はないっていうのに釘付けといった雰囲気でステージを見つめる南。


「....で、どうしてお前がここにいるんだ?」


....まさか、と思う。たまたま夢に出てきてたまたま俺のなまえを抱いたっていう空想の世界の出来事なのに、まさかこうして現実において、なまえと南に何か繋がりがあるのでは...と疑い始める自分がいる。いや、そんなことはないはずだ。コイツと関わりがあるのなら絶対的に俺であるはずだし、大阪やバスケットに深い関わりのないなまえが、この南と何か繋がりがあるはずが......


「みょうじさんの絵の、ファンやねん。」

「......は?」


「みょうじさん」という単語に俺の心は容易に反応した。それは好きだからこその反応よりも、コイツの口から「俺の女」の名前がサラッと出たという、夢が現実に変わりつつあるような、そんな恐怖に対する反応であった。


「....絵とか、興味あるんだ....?」

「まぁ、綺麗なもんは好きや。みょうじさんの絵はめちゃくちゃ吸い込まれる。....なぁ?」


なぁ?と問われ、南は俺に視線を寄越してくる。その瞬間俺の中の何かが壊れた。


「....お前、何が言いてぇんだ?」

「....あーあ、綺麗な顔が台無しやなぁ。」


馬鹿にしたように笑ってくる南。コイツ、何もかも知ってやがる....やっぱりなまえと知り合いなのか....?


「どういう関係だよ、なまえと......、」

「絵を描いてもらったことがある。ただそんだけや。」

「絵を.....?!」


どうして南が、いつ....?!と慌てる俺に南は「あ、あともうひとつ」と付け加えた。


「俺がみょうじさんの大ファンやねん、多分やけどファン1号は俺やな。」

「....テメェ、」


勝ち誇ったように笑ってくる南に対して拳を握りしめる。なまえと南が会ったことあるなんて、本当に知らなかったしできるなら知りたくなかった。あの夢で見た出来事が、もしかしたら現実になり得るんじゃないかと、柄にもなく汗が出てくる。


まさか、元カレとか....そんなことは....。


「そないな顔せんでも。みょうじさんは彼氏にゾッコンみたいやったし?無理に奪うような真似はせぇへんわ。」

「あったりまえだろうが!そんなことされてたまっかよ!」

「にしてもあれやなぁ。俺、みょうじさんに伝言頼んどいたんやで?」

「....伝言?なんだそれ。」


険しい顔をしているんだと自分でもわかってる。でも眉間にシワを寄せなきゃ南を見られない。こういう時こそ冷静で、どんなことがあろうとなまえは俺のもんだって言い張れる男になりたいってのに、この間の夢のこともあってか早くなんとかしたい気持ちで焦りが半端ねぇ.....だっせぇなぁ......。


「藤真が彼氏なんやろなって思ったから。デコの傷、悪かったって言うといてって。」


......そんなこと、一言も......。


「...その様子だと、みょうじさん隠しとったみたいやな。俺と会ったこと自体。」

「..............」


返す言葉が無くて黙り込む。南は「安心せえや、ほんまに絵描いてもらっただけや」と笑いながら付け加えた。

なんでだ、なんで........なんで黙ってたんだよ、なまえ.......


ぼうっと考え込む俺に南は「そんな顔しとる場合やない」と言ってくる。南を見上げれば真っ直ぐ前を見たまま「ほれ」と顎で前を指した。


そこには周りの拍手で出迎えられるなまえがいた。ステージに立つなりペコペコと頭を下げてマイク片手に話を始めている。


「敵対視すべきは俺やないで。みょうじさんはもう時の人や。これからいろんなもんがみょうじさんと藤真に降りかかってくるんやろうなぁ。」

「......わかってる、」

「その全てを、隣で共に乗り越えてどんなことがあろうとあの子を必ず守り抜く......その覚悟は出来とるんやろ?」


南の言葉を聞きながら俺の視線の先には嬉しそうに話をするなまえがいる。


「....出来てへんのなら、俺に譲ってくれ。」

「....そんなことするわけねぇだろ。」


俺が守るよ、なまえのこと。


そう続ければ南は「あぁ、そうかいな」と笑った。


「なんも心配することないで。あの子はアンタにベタ惚れやった。少なくとも俺の前では、な。」


今はどうか知らへんけど。


南の言葉を聞いて再びなまえに視線を移す。不意に目が合うなり俺に気付いたようで少しだけ口角を上げたように見えた。それに左手を上げることで応えた俺だったが、途端に今は隣に南がいることを思い出す。こんな場で二人がまた再会なんてことは避けたいけれど...と隣を見やればそこには既にアイツの姿はなかった。


「あ、あれ.......」


辺りを見渡しても南の姿は無かった。








君を守り抜く覚悟を決めようか







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