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対仙道彰との戦に精を出していた楓、寿、大。仙道彰との直接対決にはまだ遠くはあるが、仙道家の手下との対戦に苦戦しながらも互角の戦いぶりを見せていた。


そんなとある日、栄治の耳にはとんでもない情報が入ってきたのだった。


「....あ、兄上が....亡くなった....?!」


一刻も早く駆けつけたい気持ちを抑え牧紳一の元で生活を続ける栄治の耳に届いたのは、二番目の自身の兄、大が仙道の手下と対峙し敗れ、斬られたというものであった。就寝時を襲いにかかった大は仲間と共に返り討ちに遭い、命を落としたとのことだった。


「な、何故そんなことに.....っ、兄上.......!」


大とその仲間による単独行動であった為、寿や楓も知らぬ間に大は命を落としたのだった。栄治は握り拳に力を込め、ガクガクと震え始めた。とうとう我慢が限界を超え、その足は一歩、また一歩と牧紳一の元へと向かう。


「.....行かなければ、ならないのです.....っ!」


たとえ、あなたを斬ることになったとしても...私は行かなければ....いや、「私が」行かなければ.....!


栄治は目に涙を溜めて牧に訴えた。散々行かせないと豪語していた牧も事の次第を知りその思いが少しだけ揺らいでしまう。行かせたくない、この子がその兄のように、戦で命を落とすなんて...そんな現実は迎え入れたくない。しかしこの目はどうだろうか。牧は今まで見たこともない栄治の力強い「眼差し」に、とうとう背中を押す以外の選択肢が無かったのだった。


「....栄治、私の話をよく聞きなさい。」

「....はい。」

「約束してくれるか....必ず、その戦に「勝つ」と。」


牧はそう言ってジッと栄治を見つめた。涙目の目の奥がゆらゆらと揺れて牧を捉える。「...はい」と呟いた涙声であるその弱々しい声に牧は苦笑いが漏れた。ここぞという場面で見せたあまりにも栄治らしいその弱さに笑わずにいられなかったのだ。


「大丈夫か....、約束は守る為に交わすのだぞ?」

「は、はいっ....。必ず、必ず勝ちます.....!」


今度こそ、栄治は強く、ハッキリと言い切った。その様子に牧は優しく微笑み栄治の頭を撫でる。そして「護衛をつけることを条件に、戦へ行くことを許可する」とついに牧から許しが出たのだった。


「ありがとうございます.....!」













「どうして栄治殿は、仙道を憎むのですか?」

「....母上を苦しめた人だからな。」

「妾のまま、側室に迎え入れなかったからですか?」


栄治を送り出す条件として牧が「護衛」として同伴させたのはここらで強いと有名な男二人組、正真正銘の兄弟、河田雅史と河田美紀男であった。二人は栄治を真ん中にして歩く。何かあれば必ず栄治を守るようにと牧から厳しく言い聞かされていた。


「そうじゃないよ。元々仙道は父上の敵だった。」

「....複雑なのですね。」

「あぁ。正式に滅ぼして、清々しい気持ちで朝を迎えたいんだ。」


栄治はそう言って空を見上げた。黙って歩く兄の雅史と違い、弟の美紀男は栄治の生い立ちに興味津々であった。何かにつけて栄治に話しかけ「栄治殿」「栄治殿」とまとわりつく姿は護衛というよりまるで子供のようだった。


「....見えたぞ、あそこだ。」


静かに歩いていた雅史がそう指をさす。そこには久しぶりに目にした兄、寿の姿があり栄治は駆け足で兄の元へと向かった。


「兄上....っ!!」

「....栄治....?」


寿の元へ駆け寄るなり栄治は「兄上が、亡くなったのは本当でしょうか...」と恐る恐る問う。寿は途端に表情を曇らせて「あぁ」と呟いた。その返答の重みに耐えられなくなった栄治は受け入れまいと必死に拒否していた大の死を受け入れざるを得なくなり、目にはじわじわと涙が溜まっていく。


「栄治、そんな顔をするな。ここへ来たということはもちろん、大の仇をとる覚悟も出来ているんだろう?」

「....は、はいっ.....!」


栄治は必死に涙を堪えて寿に視線を向けた。強くてたくましいその様子に、必死についていかねば....紳一様との約束を守らなければ....と栄治は握り拳を作った。


「.....そなた、名をなんと.....?」


決意を固めた栄治の耳に、隣にいた男の声が入ってくる。寿の横に並ぶ背の高い男を見るなり栄治は固まった。なんとなくではあるが、これが初対面であることや、自分に全く関係のない他人であるような気がしなかったのだ。


「....藤真家九男、栄治と申します....。」

「....栄治、」


その名を聞いてその男はスッと栄治に向かって手を差し出した。握手を求めてくるようなその綺麗な手に栄治がどうしたものかと戸惑っていればその男は「お目にかかれて光栄だ」と言った。


「あ、あの......」

「藤真家三男、楓と申す。」

「....か、楓さま....?!」


その名は幾度となく耳にしてきた...と栄治は途端に震え出す。いまだに差し出されたままの楓の指の長い綺麗な手に慌てて自分の手のひらを重ねて、二人はようやく握手を交わすことに成功した。


「こ、これは....っ、ご挨拶が遅くなり申し訳ありません....!」

「構わん。そなたが来てくれたことを嬉しく思う。」


藤真家三男の楓という男は、母こそ違うものの同じ父親から生まれた異母兄弟でありながら、仙道に流人にされ、ひっそりと力をつけて伊豆ではそれなりに名を馳せていた有名人であったのだ。栄治は胸を高鳴らせながら楓の言葉に深々と頭を下げた。


「栄治、共に父上の仇をとろう。」


楓にとって栄治の登場はとても心強いものであった。同じ父の血を受け継ぐ身として、同じ敵を掲げ協力し合えることは幸せだ。それにひとりでも味方が多い方がいい。


「楓様、全力を尽くす所存でございます。」

「栄治、期待している。」


栄治はついに寿や楓と合流したのだった。父、そして兄の仇を絶対にうつと心に誓い、河田兄弟という二人の強い護衛を身につけ、戦へと挑むことになった。






全てはあの方を倒す為


(栄治、共に頑張ろう...)
(はい、楓様....!)







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